
オクターブファズ。ファズの上にオクターブ上の音を乗せたもので、非常にアクの強い個性的な音でありながら、かたやその圧倒的な存在感で、どっぷりとはまり込んでしまうギタリストも多く存在します。今回はこのオクターブファズに焦点を当て、その歴史、構造、有名な使用ギタリストからおすすめモデルまでを解説していきます。
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オクターブファズとは、ファズ特有の歪みサウンドに「オクターブシフト回路」を組み合わせたエフェクターです。特にファズを生成する回路を利用してオクターブを作っているところに特徴があり、回路機構も音色も含めて通常のオクターバーとは違う雰囲気を生み出します。一般的には原音より1オクターブ上の成分を加えるものを指しますが、下オクターブを生成するタイプも存在します。
オクターブ上を足す一般的なオクターブファズの場合、金属的でベルのような倍音が特徴的です。この金属的な響きはリングモジュレーターにも似た質感を持ち、独特の浮遊感や広がり、あるいは攻撃性を生み出します。特にリードプレイでは長いサスティンと豊かな倍音が際立ち、他の歪み系では得られない存在感を放ちます。
Jimi Hendrix – Purple Haze(1967)
ヘンドリックスのコンサート映像。
コンサートでは普通のファズで弾かれていることが多いこの曲、このバージョンは確実にオクターブファズが使われています。
このエフェクトが登場した1960年代後半は、サイケデリックロックやブルースロックが隆盛を極めていました。ファズの新しいサウンドを前面に押し出したジミ・ヘンドリックスの使用をきっかけとして、オクターブファズはギターサウンドの新しい可能性を提示しました。その象徴的存在がRoger Mayerの「Octavia」でした。
オクターブファズは、特にトラディショナルなOctaviaを代表として、その鳴り方にいくつかの独特の特徴があります。
まず、倍音成分の出方がピッキング位置やピックアップの選択によって大きく変化します。ネック寄りでピッキングするとオクターブ成分がより際立ち、ピックアップ選択でもネック側を使用するほうがはっきりとしたオクターブの音を得ることができます。反面、ブリッジ付近でのピッキング、またブリッジピックアップの使用ではファズ感が前面に出るため、よりゴツゴツとした質感での演奏ができます。
このような特性を持っているために、演奏者はこのサウンドの鳴り方と演奏でのコントロールに慣れていく必要があります。
また、12フレット付近で演奏するときにオクターブ成分がもっとも明確に現れます。逆に低いポジションでは原音と倍音が複雑に干渉し、オクターブ成分が薄くなり、ファズ感が前面に押し出されます。またハイポジションであっても、音数の多い和音では音が潰れて何を弾いているのかわからなくなりがち。ましてやローポジションでのコード弾きは、特殊なサウンドを得るのでなければあまり使うべきではないでしょう。
この傾向は初期のOctaviaに顕著ではありますが、オクターブ上の音を足すオクターブファズには、どのモデルにも大なり小なり存在しており、扱いが難しいと言われる一つの大きな原因となっています。
オクターブファズは、大きく分けて以下の3つの回路ブロックで構成されます。
ファズ回路の基本的なサウンドは、増幅して頭打ちになった部分が切り取られる、という歪み系に共通した原理で作られます。

このように、大きくなりすぎた信号は上下が切り取られ、音が破綻することになり、これが歪みとなって生み出されます。この原理にトランジスタを使用しているのがファズのサウンドに大きく寄与しています。この機能にダイオードを使うとディストーションらしい音色になります。
位相を反転させ、さらにダイオードは片側の電圧しか通さないことを利用して、片側の電圧をすべて排除します。
そのうえで、両者を合わせると元の波形の2倍の振幅数を持つ波形が現れます。2倍の周波数となるため、これがオクターブ上の音階となります。

この原理は波打つ交流信号を直線の直流信号へと変換する「整流」の過程で登場します。整流回路と呼ばれるのはそのためで、本来これを直線に近い波形にさらに変形させていくのですが、オクターブファズはこの状態からさらに波形を大きくすることで、音へと昇華させています。
出来上がった波形は非常にいびつな形をしているのがわかると思います。これが独特の金属的な響きのもとになっています。
不要なノイズや低域をカットし、倍音成分を整えることで、聴きやすいサウンドへと改良する回路が最後に配置され、これを経てあの独特なサウンドが完成します。
オクターブファズは実は他のペダルとの相性もよく、後段にもう一つファズをつなぐことで、作られたオクターブ上の音に歪みを与えた上、音量が均一化されることにより、さらにインパクトのあるサウンドを作ることができます。これはファズではなく、ディストーションなど他の歪みでもOK。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのケヴィン・シールズは、ライブの際にOctaviaを他のファズの前段に使うことがあります。また、前段にワウを繋ぐ方法はヘンドリックスの時代から存在する古典的な手法です。
Adrian Belew – Big Electric Cat (1982)
前年に新生キング・クリムゾンに参加したエイドリアン・ブリューのソロアルバムより。
当時のキング・クリムゾンと同じく、かなり実験的な要素が強い楽曲です。
使用されたファズはFOXX “Tone Machine”と言われています。

ジミ・ヘンドリックスのためにロジャー・メイヤーが開発した伝説のモデルです。倍音を強調する独自の回路は当時としては革新的で、ヘンドリックスのサイケデリックなサウンドの一端を担った、まさにオクターブファズの原点です。少数ながら現在でも生産されており、現行品は当時のものに比べて音がスッキリとし、オクターブアップの音が不自然に切れることがなくなり、さらに和音を弾いたときの音の潰れも緩和されています。

ヘンドリックスの死後、ロジャー・メイヤーの設計をもとに、カリフォルニアのTycobrahe(タイコブラ)社が製品化したモデル。現在ではオリジナルに継ぐクラシカルなオクターブファズの代表格で、多くのクローンの元祖となりました。発明者であるロジャー・メイヤーはこの製品を「不完全なプロトタイプのコピー」と断じていますが、オクターブファズの一つの指標となり、エレクトリックギターの歴史に大いに寄与したのは確かです。

Fender社から発売されていたオクターブファズ。オンオフとブーストの2つのフットスイッチに、ToneやBlendを含む4つのコントロールを備えた、当時としては幅広い音作りができるペダルです。のちにケヴィン・シールズ氏とのコラボレーションでShields Blenderという製品が生み出されており、現在ではそちらが復刻版を兼ねて現行品となっています。

青い筐体が印象的なMXRの名機。オクターブ上に音を足すのが普通であったオクターブファズの世界において、2オクターブ下に音を付け加えるという亜流として登場し、その独特の存在感から人気を誇る存在となった一品です。現在ではジミー・ペイジが、Led Zeppelinの「Fool In The Rain」で使用したとして有名で、近代のガレージロックバンドでも多くの使用者がいます。MXRという大きなメーカー発であるからか、安定した生産体制が保たれており、現在でも現行品が普通に手に入ります。
Led Zeppelin – Fool in the Rain(1979)
MXR Blue Boxが使われたレッド・ツェッペリンの楽曲。
ソロは3:50から。
オクターブファズは構造が単純なので、よく自作の対象となります。前述のように整流回路が必要となるため、普通のファズに使われる部品に加えて、一般的にトランスが追加されます。タイコブラのOctaviaでもトランスが使われ、オクターブファズのために必須の部品と思われがちですが、整流回路はトランス以外でも作ることができます。ロジャー・メイヤー本人はトランスは開発途上で使った部品で、最適な選択ではないとの立場を取っています。このあたりもはっきり音に影響が出るため、自作で様々に試すことができれば、オクターブファズの深淵を覗くことができるかもしれません。
その圧倒的な個性からカルト的な人気を誇るオクターブファズ。ロックの黎明期を飾ったジミ・ヘンドリックスの使用から、近代のガレージロックやシューゲイザーまで、それでしか得られない強烈な響きはマニアの心を捉え続けています。あまり触ったことがないという人も多いであろうカテゴリの製品ですが、そういう方は一度鳴らしてみてはいかがでしょうか。病みつきになるかもしれませんよ。
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