ブティック系ペダルが世を席巻して随分と経ちますが、今でも数としては軽めのオーバードライブサウンドを狙ったものが圧倒的です。ハイゲイン系のプレイヤーにとっては、なんともかゆいところに手が届かない印象が強かったこの世界ですが、ここ何年かでハイゲイン系のブティック・ペダルも相当に増えてきました。
ハイゲイン系のペダルと一口に言っても、さまざまな方向性があります。デスコア系音楽にも使えるような重低音と深いドンシャリ系の歪みが欲しいのか、80’sのヘヴィメタルなどで聴かれるメサブギーのようなパワフルな音が欲しいのか、あるいは圧倒的な速弾きに対応したヌケのいいリードサウンドが欲しいのか。この辺りの音色の差で、選択肢はかなり変わってきます。ここに紹介するのは、ハイゲインで深い歪みが得られるもので、高い品質をもつものばかり。一息で購入するには勇気が要る値段のものが多いですが、今欲しい音を狙ったものが必ず見つかるでしょう。
ドイツのハンドメイド・ギターアンプ・ブランド Diezel。中でもフラッグシップモデルの「VH4」は、メタリカのボーカル/ギターであるジェイムズ・ヘットフィールド氏が使ったことで一躍人気に火がつき、パンク・ハードコア・メタル系のギタリストにこぞって愛用されたアンプヘッドです。
2016年に登場した「VH4 PEDAL」は、そんなVH4アンプの3チャンネルが持つ凶悪なウルトラ・ハイゲイン・サウンドを再現したペダルタイプのエフェクター。7つのツマミでアンプの3chと同様の動作を実現し、プリアンプとしても使用できます。Roland JC-120などの超クリーントーンなギターアンプに繋いでも説得力のある轟音が得られ、アンプハード/ヘヴィなディストーションサウンドが得られるペダルとして重宝するでしょう。
2017年に登場した「VH4-2 PEDAL」は、VH4アンプの3&4チャンネルのサウンドを再現した2chモデルとなっており、VH4のサウンドをリズム/リードと切り替えて使うことができるようになっています。
Diezel VH4 PEDAL
Diezel VH4-2 PEDAL
「VH4 Pedal」のヒットを受けてか、2018年にはDiezelのギターアンプヘッド「Herbert」のプリアンプ部分をシミュレートしたペダル「Herbert Pedal」が登場します。「Herbert」は「VH4」と並んで人気の高いアンプヘッドで、VH4同様ウルトラディストーション・サウンドが魅力の製品です。ペダルとなった「Herbert Pedal」では、Herbertアンプの大きな特徴であるMidcutコントロールを搭載し、中域をカットすることでシャープでエッジの効いたディストーションを生み出すことが可能です。MidcutをON/OFFするフットスイッチが搭載され、スイッチのON/OFFによってブースターのように扱うことができます。
Bognerの定番アンプ、「ECSTASY」のREDチャンネルを再現したディストーション・ペダル。REDチャンネルはECSTATYに搭載されている3チャンネル中最もハイゲインなチャンネルで、2012年にこのチャンネルを再現した初のペダル「ECSTASY RED」が登場しました。本機「ECSTASY RED MINI」は比較的大型であった前機種を小型化したモデルです。ブースト機能やアンプの電圧を落とした際の挙動を再現するvariacスイッチ、サウンドのキャラクターを変更するmodeスイッチはオミットされていますが、基本的なサウンドはそのままにダウンサイジングされています。また、歪みの量を大まかに設定するgainスイッチが新たに搭載されており、前機種とは少し違った立ち位置のモデルといえるでしょう。
KORGとノリタケ伊勢電子の共同開発によって2015年に発表された新型真空管「Nutube」を採用したハイゲイン・ディストーション・ペダルです。Nutubeは非常に小型であることに加え、従来の真空管と比較して省電力、長寿命であるため、登場以降この「VALVENERGY」シリーズをはじめとするギター・エフェクターにも多く採用されています。小型ながらもチューブの持つレスポンス、倍音成分がぞんぶんに発揮されており、厚みのあるナチュラルなサウンドが魅力です。また電源は内部で15Vに昇圧されているため、ヘッドルームの広いエネルギッシュなサウンドが得られます。ペダルとしての使用はもちろんのこと、プリアンプの信号やキャビネット・シミュレーターが適用された信号を出力することも可能で、PA卓に直接信号を送ったりと、用途も幅広い一台です。
オランダのハンドメイド・ギターアンプ・ブランド Koch。「Super Lead」は本物の真空管を搭載、Kochアンプのモダンハイゲイン・サウンドを再現したクリーントーン/ドライブの2チャンネル仕様ディストーション・ペダルです。3バンドEQを搭載している他クリーンとドライブは個別に音量調節が可能。アンプのリターンに繋ぐ、パワーアンプに直接繋ぐといったプリアンプ的な使い方も可能となっています。Kochの歪みが好きな人は要チェックなペダルです。
国産ハンドメイド・エフェクターブランド Vivie が2018年にリリースしたディストーション・ペダル「IRENE66」。BABYMETALのバックバンド「神バンド」でも知られるギタリスト大村孝佳氏シグネチャーモデルで、ブースターを搭載した2フットスイッチ・スタイル、市販の歪みペダルの中でもトップクラスの歪み量を誇るというウルトラハイゲイン・ディストーションが得られます。本機は「JC120」「JCM900」「JCM2000」といったスタジオ常設アンプを大村孝佳氏のサウンドに変えることを目的に設計されているため、スタジオやライブなどで非常に実用度の高いモデルです。
Vivieからリリースされている、ギタリスト大村孝佳氏のシグネイチャー・ディストーション・ペダルです。
特筆すべきポイントは、接続するアンプのことまで考慮して設計を行っているという点。リハーサル・スタジオやライブハウスに常設されているアンプの中には、メンテナンスが行き届いておらずヘタってしまっていて、お世辞にも良い音とは言えない状態のものも多く、お気に入りのペダルやギターのサウンドを十分に発揮できないこともしばしばあります。ATHENAは常設アンプの定番機種であるRoland JC-120とMarhshall JCM800とマッチングするモードを搭載しており、それらのアンプをブティック・アンプのようなリッチなサウンドへと変貌させることができます。アンプを持ち運ぶことなく、どこに行っても同じサウンドを保つことのできる、プロ志向のディストーションです。
ATHENAの兄弟機として発売されたオーバー・ドライブ系のサウンドの「MINERVA」もオススメです。
カナダ発ブランドEmpress Effectsのヘヴィディストーション。レンジの広い2チャンネル仕様のペダルです。一見するとつまみの数が多く見えますが、これはそれぞれチャンネル毎にgain、output、midを別々に設定可能なため。なかでも特に中域については、上部のスイッチで可変周波数のピークを500Hz、250Hz、2Khzの3箇所から設定可能。その他にweightというつまみがチャンネル毎にあり、これが各チャンネルの低域の広がりを変化させられる特殊なコントロールとなっています。公式では二つのチャンネルを音量を分けて使うも良し、全く違うサウンドとして使うも良し、と謳っています。
中域の広い可変幅や効きの良さに加え、低域の膨らみ具合までもweightコントロールで操れるため、つまみの多さからくる印象通り、様々な音を自在に作れます。現代風のダウンチューニングに適応した重低音メタルサウンドだけではなく、80年代のバキッとしたオールドメタル風サウンド、中域にピークの来るハードロック系リードサウンドまで、デュアルチャンネルであるところも含めて使い勝手が良く、オールラウンドにつぶしの効くサウンドが得られる、間口の広いペダルです。
デンマークの小さな工房EMMAからの「ピスジヤウォット」いう名のこのペダルは、音抜けの良いメタル系ディストーションを目指したハイゲイン・ペダル。コントロールはレベル、ゲインとLow、Mid、HighのEQと、シンプルなもの。製作者が宣伝動画で「カンカン」と表現する通り、ハイゲインでありながら中高域が強調されたヌケの良い音が特徴で、そのヌケの良さゆえのピッキングに対する追従性、スピード感は特筆すべきところです。公式の説明にもある「ミスまでも埋もれず聞こえるので注意」というコピーはあながち伊達ではありません。
最初からメタル用を目指して開発されているだけあり、そういう音楽にフィットするパワフルなサウンドですが、音が前に出すぎる傾向もあり、現代風のデスメタル系音楽に代表される、ドンシャリ重低音で壁を作るような強烈な歪みにはやや合わないかもしれません。逆に、下記動画にもあるとおり、シングルコイルでブルースができるほど艶のあるクランチも作れてしまう、懐の深いペダルです。
同じくEMMAの「リーザフラッジッツII」。上に挙げた「ピスジヤウォット」に比べると汎用的なディストーションに落ち着いており、そのサウンドの素晴らしさにファンの多い、売れ筋のモデルです。High、Lowの2バンドEQに加え、Biasというつまみを搭載しています。
激烈な音ではないものの、ゲインは低めからかなり歪み、あくまでも単体でディストーションとして使うように設計されています。妙なクセがなく、立体感とコシのあるしっかりした音が特徴。コントロールはノーマルなものであり、シンプルなディストーションの域を出ないモデルではありますが、そのゲイン幅は強めのオーバードライブから深いディストーションまで使え、ハードロックからメタルまでカバー可能。Biasは真空管の特性をシミュレートしているコントロールで、音の輪郭、倍音が調整できますが、このコントロールのおかげで出音を微細に追い込んでいける印象です。Suhr Riotと並べて取り上げられることがあるので、そちらもチェックしてみるといいかもしれませんね。
ウクライナ発のブランドPiOD Effectsから上陸してきたハイゲイン・ペダル。真空管アンプと同じような作り方になっているらしく、アンプらしい歪みという部分にこだわって作られているペダルです。コントロールはレベル、ゲイン、Low、Mid、Highの3EQというスタンダードなものに加え、ミニスイッチが二つ付いており、Midノブで可変させる周波数を500Hzか700Hzで選べる他、Lowコントロールをゲインコントロールの前後どちらに置くかを選択できます。
幾層にもわかれた、浅い歪みを作るためのセクションを連続で通し、結果的に深い歪みを作るという独特の回路構成は、歪ませても音の分離感を失わないのが特徴。ゲイン幅、作れる音質の幅も非常に広く、通常のハードロックからヘヴィメタルまでこなせます。さすがにアンプと同じ構成で作られているだけあり、ギターのボリュームに対する追従性も非常に高いです。
ミキサーに直接繋げるためのスピーカー・シミュレートが施されたアウトプットを内蔵。兄弟機としてコントロールをいくつか削った「What You Want2 Micro」という小型版もあります。
オーストラリア発のMI AUDIOは、数々の銘機を生み出している名ブランドですが、その中でも「Megalith Delta」はハイゲインであることを前面に押し出しているモデルです。一見すると単なるブースト付きディストーションペダルですが、元々同ブランドのMI Betaというアンプと同じような音を得られるように開発されており、ボリューム、ゲインとBass、Middle、Trebleの3EQにContourを備え、アンプと同じようなコントロールとなっています。それに加えて、サウンドキャラクターを3種類から微細に調節できるEQ Shiftスイッチを装備。EQ Shiftはサウンドをそっくり取り替えるわけではなく、質感をそのままにベースとなるEQの掛かり方を調整するためのスイッチで、これによってミッドブーストからドンシャリ系まで幅広い音作りが可能です。
もともとがアンプと同じ音を目指しているので、アンプに限りなく近い音が特徴で、特に中高域の出方などは特筆すべきものがあります。EQの各つまみは非常に反応が良く、前述のEQ Shiftとも相俟って、オールドスクールなヘヴィメタルから現代のモダンなドンシャリサウンドまで、多彩な音作りが可能。Boostスイッチも効きが良く、スピーカーシミュレーターも装備するなど、汎用性の高い一台です。
最新モデルの「MEGALITH DELTA V2」では新たにスピーカー・シミュレート回路を搭載し、自宅レコーディングにも活躍します。
アメリカ発のブースト付き強力ディストーション・ペダル。上記「warzy drive」と同じく、フロアタイプ・プリとしても使用可能なモデルです。見た目からして重厚感があり、機能がたくさん付いていそうな印象を受けますが、その見た目通り非常に多機能です。
コントロールは一見した感じでは、ボリュームとゲインの二つと3EQという一般的なものと、Tightというローをコントロールするつまみが一つとシンプルなもの。しかし、細かく見ていくと、ブースト時のゲイン&ボリューム調節つまみがあり、中域を底上げするMid Boost、中域をそぎ落とすThrash、音の輪郭を変えるEdge/Smooth、ノイズゲートを調節するChomp、全体的なゲインを底上げするGainと、5種類ものスライドスイッチが並びます。さらにOff時、On時、Boost時に別個に適用できるエフェクトループが3箇所ならんでおり、まさに非の打ち所のない拡張性を秘めています。
サウンドはハードロックからモダンなメタルまで余裕でこなせる強力なディストーションで、Tightコントロールを使った重低音リフから、ノイズゲートをいかした高速な刻み系リフにも対応します。さらに、上に記したような拡張性、サウンドキャラクターの自由度により、その強力な歪みながら、メタル系以外の音楽でも可能としてしまうような懐の広さを持っています。また3つのエフェクトループにより、リード時にのみディレイを掛けたり、Off時のみコンプレッサーを掛けたりするなど、自由自在な運用が可能です。
Amptweaker TightMetal Pro
Amptweaker FatMetal Pro
タイ発のブランドShark Effectの人気モデル。歪み量はトップクラスで、かなり激烈な歪みが得られます。コントロールはレベルとゲインに加えて、Hi、BASS、MID A、MID BというEQセクションを装備。MID部はBで周波数を変更、Aでブーストという仕様であり、中域のみパラメトリックEQに近い仕様になっています。それに加えて、ミニスイッチを二つ装備し、クリーンブースト、ミッドブーストを掛けておくことができます。
その強烈な歪みに加えて、重低音も強力にブーストできる仕様になっているので、モダンなデスメタル系のジャンルまで余裕でカバーできる派手なサウンドが出力できるのが最大の魅力。パライコとなっている中域のコントロールを含め、各EQの効きが非常に使いやすいものになっており、狙った音を作りやすいのも大きな特徴です。
運用面ではプリアンプとして使えるというところもポイントで、アンプのリターンに挿すことで、どんな環境でもペダルそのままのサウンドを得ることができます。また、ミニスイッチでのブーストはペダルをバイパスにしても効き続けるので、この辺りから考えても、トゥルーバイパスが一般的となっているただの高級ディストーションではなく、フロアタイプ・プリアンプに寄せてきた製品と言えます。サウンドがアンプに左右されにくいところは、大きな魅力と言えるでしょう。
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フィンランドの人気ブランドMad Professorのハイゲインモデル。この中ではもっともシンプルなペダルとなっており、コントロールはゲイン、ボリューム、トーンの三つ。その筐体の色に似つかわしくないブライトな音が特徴で、中高域の気持ち良い出方には他の追随を許さないものがあります。公式の売り文句にも「ゲインを上げても音の分離感を失わない」というものが明確に記載されていますが、その音質もこの中高域の音質に因る所が大きいと言えます。
うたい文句の通り、ゲインを相当まで上げても各弦の分離感が強く残るので、コードをかき鳴らすような弾き方や、アルペジオなどでは最も気持ちの良い音が得られ、リードサウンドとしても伸びのある魅力的なトーンになります。それゆえ、80’s直系のメタル系音楽やソロの多いハードロックなどには非常に合いますが、反面、重低音をとどろかせるようなハードコアなメタルトーンにはなりにくいので、そのようなジャンルにはやや不向きかもしれません。
Mad Professor STONE GREY DISTORTION
ハイゲイン系のペダルはライブハウスで使うことが圧倒的に多いためか、拡張性が高く、柔軟に運用できるものも増えてきています。昨今では普通のエフェクターとしてオンオフが出来るだけではなく、ブーストスイッチはもちろんのこと、中にはセンドリターン端子を搭載していたり、アンプのリターン端子やミキサーに接続してプリアンプ的な使い方ができるものまでちらほら登場しているほどなので、自分のエフェクター運用のスタイルを見直しつつ選ぶのも有効でしょう。自分の出したい音はもちろん、この辺りの運用的な側面もあらかじめ絞り込んでおくことで、良い選択ができるのではないでしょうか。
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