ダンブル系、フェンダー系、トランスペアレント系……、○○系ドライブペダルという括りでは昨今様々な種類のものが登場していますが、そんな中、今回はマーシャル系を特集。ブリティッシュアンプの雄、マーシャルは、ロックサウンドからは切っても切り離せない存在であるがゆえに、それをシミュレートしたペダルも百花繚乱の体をなしています。ここでは本家マーシャルのペダルを筆頭に、様々なブランドの銘エフェクターを並べてみました。
《今振り返る》マーシャルアンプの系譜 – Supernice!ギターアンプ
- 本家マーシャルのペダル
- マーシャルアンプの歴史とサウンドの変遷
- 他社ブランドのマーシャル系ペダル
- 3.1: BOSS Power Stack ST-2
- 3.2: Xotic SL Drive
- 3.3: ZVEX BOX OF ROCK
- 3.4: CARL MARTIN Plexi Tone Single Channel
- 3.5: JHS Pedals 2モデル
- 3.6: Electro Harmonix SPRUCE GOOSE
- 3.7: Wampler Pedals 2モデル
- 3.8: VEMURAM 2モデル
- 3.9: Gurus Amp 1959 Double Decker
- 3.10: Blackberry JAM Rosemary Rex
- 3.11: FREE THE TONE FM-1V FIRE MIST
2023年3月、Marshall60周年記念に際して発売されるレギュラーモデルとして4機種が復活を果たしました。
マーシャルはロックギター界のアンプの歴史を作り上げてきたアンプメーカーですが、その歴史の中ではエフェクターもいくつかリリースしています。そんなマーシャル製ペダルと聞いて真っ先に思い浮かぶのは、大抵の人はこれでしょう。Guv’nor(ガバナー:親父、おかしら)と銘打たれたこの品は、黒ずんだ大きめの筐体に目立つ”Marshall”のロゴが書いてあり、楽器店などで中古を見たことがある方も多いと思います。
音色はブリティッシュアンプらしいウェット感を残しながら、JCM800系のジャキジャキした粗い歪みを実現したもの。さらに3バンドEQの音作り幅は劇的な広さを持ち、アンプをもう一台増やしたと言えるほどの存在感を示します。80年代に発売されてのち、モデルチェンジを経て今なお人気を保ち続けているのも、うなずける完成度の高さを実現していました。
この黒い初代ガバナーには初期型の英国(イングランド)製と、リイシュー型の韓国製とがあります。一見すると同じ外見ではありますが、裏面に貼ってある銀色のシールの説明文を読むほか、電池蓋のネジの種類(マイナスが英国、プラスが韓国)で判別できます。英国製の方が音が太い、韓国製がよく歪む等、違いについて色々と説はありますが、公式にはその差は語られていません。
今回のリイシューではマットな質感の塗装やフット・スイッチのワッシャーなど、英国製機の再現が目指されています。
ギター・アンプの王道ブランドとして君臨するマーシャルですが、80年代後半ごろからはエフェクターの製造にも乗り出し、数々の名機を生み出しました。このBluesbreakerは同社の同名アンプ「Bluesbreaker」のサウンドをペダルで得られるように、というコンセプトのもと生み出されたオーバードライブ・ペダルで、甘くクリアーなサウンドはジョン・メイヤーなど多くのギタリストを虜にしています。本機はマーシャルの創業60周年を記念したリイシュー・モデルで、特徴的な正方形の筐体はもちろんのこと、オリジナル・モデルのトーンを正確に再現しています。
こちらもマーシャル60周年を記念して販売されたペダルです。Bluesbreakerが比較的低めのゲインにフォーカスしているのに対してこちらはいわゆるディストーション的立ち位置のモデルですが、ロー・ゲインにおけるブルージーなトーンも素晴らしく、ゲイン・レンジの広さが魅力の一台です。同社の名作ペダル「Guv’nor」の回路をベースに設計されていますが、トーン・コントロールが1ノブであるGuv’norに対し本機では3バンドEQを搭載し、さらに低音域のゲインを追加するなどの変更が施されており、よりアンプ・ライクなサウンドとコントロールを備えています。
マーシャル60周年を記念した4種類のドライブ・ペダルの中で最もハイ・ゲインであるのが本機、Shredmasterです。オリジナル・モデルはジョニー・グリーンウッドやケヴィン・シールズなど、90年代を代表するギタリストたちに愛されたモデルで、「自宅練習用の小型アンプでもJCM800のサウンドが得られる」という触れ込みで販売されていました。ミドル・コントロールに代わって装備されている「CONTOUR」のノブはトレブル&ベース・コントロールと相互作用的に反応し、幅広いサウンド・メイクを行うことができます。飽和感のあるヒリヒリとした質感のサウンドはまさに90’sの名盤で聴くことのできる象徴的なトーンで、ファンにはたまらない一台であるといえます。
マーシャルアンプはその発売された時期や時代背景により少しずつ違うサウンドになっており、一言にマーシャル系エフェクターと言っても、そのどこに狙いを付けるかでサウンドの傾向が変わってきます。その違いを明確に知るには、一度マーシャルの歴史的なサウンドの変遷に目を向けておくのが良いでしょう。
元々マーシャルアンプは、1960年代初頭に楽器店を経営していたジム・マーシャルと、そこで楽器の修理に携わっていたケン・ブランが、フェンダーの「Bassman」を参考にして作り上げた独自のモデル「JTM45」というアンプに端を発しています。1965年、The Whoのピート・タウンゼンドから巨大な会場でも十分に音量が得られる、大音量モデルの制作依頼を受けた彼らは、そのJTM45をベースとして大音量の100Wモデルを開発しました。これが後に「1959 Super Lead 100」と名付けられ、歴史に名を残すモデルになるのです。
「1959 Super Lead 100」は1966年頃から製作を開始しますが、特に67年頃までの最初期のモデルは、基板がハンドワイアードによるポイントトゥポイント配線で、パネルの材質がアクリル(Plexiglass)で出来ていたため、プレキシモデルと言われます。現在ではオリジナルは伝説的なモデルとして、凄まじいプレミア値が付く稀少品。エディ・ヴァン・ヘイレンがこのモデルに改造を施して創出した劇的なハイゲインサウンドは「ブラウンサウンド」と言われ、プレキシ人気にさらに拍車を掛けた一因ともなりました。現在、一般的にエフェクターやモデリングアンプなどで「プレキシ」といった場合、この頃のモデルの「1959」を指しています。
1981年、マーシャル社はアメリカ進出を視野に入れ、JCM800 [モデル名:2203(100w)・2204(50w)]を発表。このモデルは、これまでに発売されていた1959や1967等に比べるとゲインが上がっており、80年代から全盛期を迎えるハードロックのギターサウンドの一翼を担うことで、現在のマーシャルサウンドのイメージを決定づける製品となりました。その後、2チャンネル仕様でさらにゲインアップを図ったJCM900が90年代に先駆けて発表されます。
その後、JCM2000が2000年直前に発表されました。2チャンネル仕様、3チャンネル仕様の2種類があり、現代のニーズに応えたハイゲイン、クリーン、クランチを使い分けられる3チャンネルのものは、昨今全国のスタジオでも定番となっています。
自宅や部室に1台!ロックギター王道サウンドが詰め込まれた Marshall CODE シリーズのアンプ – エレキギター博士
上で見てきたとおり、マーシャルと一口に言ってもそのサウンドは多様。同じく市場に出回るマーシャル系エフェクターも多様性に富んでいます。ヴィンテージプレキシや、エディがそれを元に作り出したブラウンサウンド、JCM800やJCM2000など、それぞれどのマーシャルアンプに狙いを付けたサウンドなのか理解できれば、自分が求めているマーシャルアンプのサウンドに近づくことができるでしょう。
コンパクトエフェクターの雄、BOSSが送るマーシャル系エフェクター「Power Stack ST-2」。名前の通り、ヴィンテージのマーシャル・スタックアンプを意識した作りになっています。公式に明記されてはいませんが、明らかにマーシャル系のジャキッとした音色です。コントロールにはトレブルとベースだけで、ミドルがありませんが、歪ませれば歪ませるほどドンシャリに近い感じの音になっていくのも一つの特徴。ゲイン幅は一口にヴィンテージとも言えない広さを持ち、ハムバッカーであればメタルが可能なほどです。
Xoticのこのエフェクターはオリジナルの「1959 Super Lead 100」に狙いを定めて作られたもので、SL DriveのSLはその名前に由来します。オリジナルの1959が意外にそうであるように、ゲイン幅も必要十分な広さをもっており、良い意味でXoticらしからぬ荒々しいサウンドが得られ、クランチからディストーションまで、どのようにセッティングしても気持ちの良い歪みを生み出してくれます。小さい筐体に工夫して搭載されたコントロールは3つと少ないですが、背面カバーを開けたところに見えるミニスイッチでサウンドの微調整を可能にし、サウンドバリエーションの広さを補っています。エフェクターボードに敷き詰めるスタイルのギタリストには、この小ささでこのサウンドは唯一無二の存在。非常に魅力的でしょう。
BOX OF ROCKは、マーシャルアンプ初号機「JTM45」のサウンドを目指して作られたペダル。オリジナルのJTM45は未だハイゲインが必要とされず、そもそもそんなに歪むアンプがなかった時代のもの。そこを狙って作られたこのペダルも、当然ゲイン幅は狭いです。しかし、その粘っこいアンプっぽさは、弾いていて気持ちの良い素晴らしいサウンドで、オールドスクールなブルースロックやコードのかき鳴らしには最適な極上のクランチトーンを提供してくれます。内蔵のブースターは、同社の銘機「Super Hard On」と同じ回路。そう聞くと、ますますこれ一つでも手に入れる価値のあるペダルです。
マーシャル系サウンドを再現したCarl Martinの人気ペダル「Plexi Tone」の High Gain チャンネルを抜き出し小型化したオーバードライブ。コントロールはレベル、トーン、ドライブの3つと大幅に縮小化、MXRサイズに収まり、本家には出来ない9Vアダプター駆動も可能となっています。多数あるマーシャル系ドライブの中でも、中域が削がれない太いサウンドが持ち味で、ブースターからクランチ、ハイゲインサウンドまで幅広い音作りが可能です。
CARL MARTIN Plexi Tone SINGLE CHANNEL
「Charlie Brown V4」は、ヴィンテージプレキシからブラウンサウンドまでをカバーしたオーバードライブ・ペダル「Charlie Brown」の操作性、EQセクションをブラッシュアップしたバージョンアップ版。基本的な音はCharlie Brownのそれを受け継いでいますが、新しく作り直されたEQセクションは、トーンとプレゼンスだけであった前バージョンからBass、Middle、Trebleの独立した3EQへと進化を遂げています。
サウンドは適度に荒々しさを持っており、アンプライクな弾きやすく気持ちの良い歪みが特徴。ブラウンサウンドまでを視野に入れているため、歪みの幅は広く、深く歪んだハードロックでも対応可能です。
「Angry Charlie」はその名の通り、Charlie Brownのディストーション・バージョン。全体的な音の傾向はCharlie Brownと近いものですが、本家のGov’norのイメージを設計に取り込んでいるようです。プレキシ系からブラウンサウンドを狙って作られていますが、歪みはかなり深いところまでカバーしており、同じくブラウンサウンドといっても、メタル系音楽にも対応できそうなほどのハイゲインまで作り出せるところがAngryたる所以でしょうか。トーンとプレゼンスは左回しでブーストという通常とは逆の動きで、非常に効きが良いのが特徴。ハイゲインをカバーしているものの、根底にあるのはJTM45に代表されるヴィンテージマーシャル系の音なので、ドライブを絞った際のクランチも絶品。
JHS Pedalsの「Morning Glory」などと同じく、(アンプの)Bluesbreakerにインスピレーションを受けて設計されたペダルです。多くのBluesbreaker系ペダルと同じくトーンへの色付けが少ないため、トランスペアレント的な要素も持ち合わせているのが魅力です。ゲイン、ボリューム、2バンドEQのシンプルなコントロールに加えて、歪み回路に入力される前のゲインを3段階から調節する「LIFT」スイッチを搭載しており、歪みの深さや質感を大きく変化させることもできます。また「BASS」ノブはアクティブEQとなっており、ギターやアンプに合わせて柔軟なトーン・シェイプが可能です。
アメリカ・インディアナ州に拠点を置くWampler Pedals。「Plexi-Drive Deluxe」はプレキシマーシャルを狙ったドライブペダル「Plexi-Drive」のデラックスバージョンです。
トーンのみだったEQはBass、Middle、Trebleの3EQになり、bright boostスイッチの増設、pre gain、post gainの2チャンネル化などで、よりサウンドバリエーションを増やし大幅なグレードアップを成し遂げたモデルです。ノーマルのPlexi-Driveにもあったbass boostはそのままに、bright boostではより明瞭な高域のブーストも可能。post gainセクションではプレキシアンプそのままに近いサウンドを得られ、pre gainはTS-9をアンプの前に併用したような効果が得られます。preとpostは独立した運用も可能なので、pre gainの粘っこいオーバードライブを単体で使用するのも面白いでしょう。まさに、2種のモデルを内包したような贅沢な一台となっています。非常に効きの良いEQセクションも相まって、サウンドの作りやすさもピカイチです。
Wampler Pedals Plexi-Drive Deluxe
Pantheon Deluxe Dual Overdriveは、Bluesbreakerにインスパイアされた同社のペダル「Pantheon」を2チャンネル化したモデルで、チャンネルごとにゲイン・コントロールと3バンドEQ、歪みの量を大まかに切り替えるゲイン・レベル・スイッチ、クリッピング方式を3種類から選択するヴォイシング・スイッチを装備しています。ゲイン&ヴォイシング・スイッチや2チャンネル共通のプレゼンス・コントロールは1チャンネルのPantheonにはなかった新たな機能で、音作りの幅も広がっています。またチャンネルごとに入出力が設けられているため、間にほかのエフェクターを挟むなど、ルーティングの自由度が高い点も魅力的です。
Wampler Pedals Pantheon Deluxe Dual Overdrive
国産最高峰のエフェクターブランドVemuramのブリティッシュ系ペダル。「Rage E」はVemuramの第一号機です。モダン・マーシャル系のサウンドを狙っており、プレキシ系ではなくJCM2000に近いサウンドを創出します。一見するとコントロールにはゲインが一つしかありませんが、側面にゲイン調整用トリマーが付いており、これを回すことでおおまかなゲイン幅を調整可能。その幅はかなりのもので、最大まで回すとウルトラハイゲインまでをカバーできます。また、このモデルの最大の特徴はそのローノイズにあり、本体内蔵のブースターをONにしても、ノイズが上がってくることはありません。
「Karen」はRage Eとは違って、70、80年代のオールドマーシャルをイメージしたもの。サウンド、ゲイン幅はおよそJCM800に近いものになっています。コントロールはレベル、トーン、ゲインと、一般的な3つですが、ボディトップ部分にあるゲイン調整用トリマーを調整することで、ゲイン幅にさらなる広さを持たせられます。どのようにセッティングしても使える音が出るのが特徴で、この部分の調整はさすがにハンドメイドならではと言えます。
2016年に登場した「1959 Double Decker」は、Marshall 1959のプレキシサウンドを再現した独立2チャンネルのフロア型プリアンプ/オーバードライブ・ペダル。本物の真空管12AX7/ECC83を搭載、2チャンネルとは別にソロ時にONにしてブーストさせるチャンネルを持つ計3チャンネルの扱いができ、並み居るマーシャル系エフェクターの中でも最も多機能で高性能なエフェクター。解像度の高いサウンドはペダルというよりはもはやアンプヘッドのようです。
2017年8月に登場した国産エフェクターブランドBlackberry JAMの「Rosemary Rex」は、プレキシサウンド「1959 SuperLead」と「EVHのブラウンサウンド」2つのマーシャル・サウンドを1台に搭載し、2つのサウンドを切り替えて使用できるペダルです。コンパクトなボディに2つのフットスイッチを搭載し、片方はエフェクトのON/OFF、片方は搭載しているブースター機能のON/OFFに対応。4ツマミの操作と組み合わせることで多彩なサウンドメイキングが可能です。
2018年5月に登場した「FM-1V FIRE MIST」は、国内トッププレイヤーのエフェクター周りのトータルデザインを行うFREE THE TONEによるマーシャル系ペダル。理想のブリティッシュロックサウンドを得るためエフェクターを構成するあらゆる要素を徹底的に検証し、テストを繰り返しながら数年の歳月をかけて作り上げられたとのことで、本記事で紹介するマーシャル系のペダルの中でも極めてハイエンドな部類に入るモデルです。
以上、膨大な数のマーシャル系エフェクターを紹介しました。これだけのペダルの中から好みのモデルを探すのは大変困難かもしれませんが、マーシャルアンプの系譜と各アンプのサウンドをある程度イメージできていれば、好みのモデルを選ぶ指針となるでしょう。本ページとあわせて参考いただき、お気に入りの1台を見つけるお手伝いとなれば幸いです。
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