オーバードライブ・ブースターの名機…そう言われるとあなたは何を思い浮かべるでしょうか?BOSS OD-1やアイバニーズのチューブスクリーマーなどの往年の名機を思い浮かべる方もいれば、近年高い人気を集めているランドグラフなどを思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。そんな多くの名機の中でも一際異彩を放ち、高い人気を集めているのがKLONのCENTAUR(ケンタウロス)でしょう。
ケンタウロスは製造数が極端に少ないことから非常に入手が困難で、一時期は現行モデルがプレミアム価格で販売されているというケースも少なくありませんでした。また初期ロットのモデルはさらに台数が少ないことから、お金を出しても入手することができないと言われたほどです。文字通り幻のエフェクターであるケンタウロスですので、長年憧れ続けているという方も多いかもしれません。そういった需要にこたえる形で近年ではそのクローンモデルがさまざまなメーカーから登場しています。ここではそんなケンタウロス・クローンについてお話してみたいと思います。
まず、ケンタウロスとはどんなエフェクターなのでしょう?
オリジナルは1994年から2009年の間にKLON社によって開発された所謂ブティック系と呼ばれるオーバードライブペダルの一つで、ブースターとして使用されることの多いエフェクター。プロミュージシャンの間でも非常に評価が高く、国内でもchar、布袋寅泰、松本孝弘など、人気ギタリストのサウンドを支えてきた伝説のエフェクターの一つです。そのサウンドの最大の特徴は太さにあります。単にローミッドを持ち上げたような太さではなく、同時に非常に抜けるサウンドを生み出すことが可能となっています。本体のゲインを使用せずに純粋に音量を持ち上げるような使い方をしても、しっかりとケンタウロスならではの個性は発揮され、太く抜ける、という多くのギタリストが理想としているサウンドを実現してくれるのです。
近年のハイエンド系エフェクターでは当たり前となっているトゥルーバイパスも採用されていませんが、そのおかげで、スイッチをオンにしなくても繋ぐだけで音が良くなる…そう語るギタリストも少なくありません。そのサウンドを聞けばほとんどのギタリストが虜になってしまう…それがケンタウロスなのです。
東京・中野の歪みペダル専門店「ヒズミ屋」に展示されている、klon centaurのラインナップ
オリジナル・ケンタウロスは
など、製造時期によってデザインが異なるいくつかのランナップが存在しています。いずれも内部構造は同様となっているので同じ音が出るはずですが、個体差によって「音が違う」とされています。全モデル共に生産終了となっており中古市場でも極めて入手しにくいのが現状です。
では、ケンタウロス・クローンとは何なのでしょう?
これは、その名の通り、ケンタウロスを目指して、またはモチーフとして作られたオーバードライブペダルの総称です。かつては純粋に回路をコピーして作られたクローンモデルが市場に出回っていましたが、今日ではさまざまなメーカーがオリジナルのケンタウロスをモチーフとしてさまざまな個性や機能を追加したモデルを製造・販売しています。ベースとなったのは前述の通り伝説の名機ですので、どれもとても魅力的なサウンドをアウトプットしてくれます。
近年、こういったケンタウロスクローンモデルが非常に多く登場していることから、歪み系エフェクターの一つのジャンルとして確立されていると言ってもいいでしょう。
それでは、さまざまなメーカーから発売されているケンタウロス・クローンモデルをご紹介してみたいと思います。
「Klon KTR」は本家の後継機種のためケンタウロスクローンとは言えませんが、ここでご紹介します。KLONがケンタウロスの正式な後継モデルとして生み出したのが「KTR」です。基本的な回路はケンタウロスのものをそのまま使用し、個体差を最小限に抑えるために、音の要となる部分以外のチップを新しいものに変更しています。この変更によって、オリジナルケンタウロスとは多少異なったサウンドとなっていますが、これこそが現在進行形のケンタウロスと呼べるのではないでしょうか?
初代モデルとの大きな変更点として、新たにトゥルーバイパス/バッファードバイパスの切替が可能となりました。この他、外観も大きく変更され、よりコンパクトになったことから、エフェクトボードに組み込みやすくなった、という点も嬉しいポイントの一つです。以下動画は「ゴールド」「シルバー」と後継機3台の比較です。
KTR Klon vs. Silver Klon vs. Gold Klon
ケンタウロス・クローンモデルの代表格とされているのが、J.Rockett Audio Designs(JRAD)による「ARCHER」「ARCHER IKON」2機種です。上述の「KLON KTR」を製造したのがRockett Pedalsというブランド。そしてJRADはRockett Pedalsの傘下ブランドということで、この2機種については他のケンタウロス・コピー品と違い正統派ケンタウロス・クローンと言えるでしょう。
2014年にシルバーカラーの「ARCHER」、2015年にゴールドカラーの「ARCHER IKON」が登場しましたが、いずれも本家のルックス/操作系統を意識したデザインが採用され、大幅にコストダウンされています。
J Rockett Archer Ikon vs Klon Centaur
J.ROCKETT AUDIO DESIGNS ARCHER IKON
ケンタウロスクローン系エフェクターの中でもリーズナブルなペダルが「Electro-Harmonix Soul Food」です。本機は、そのままのケンタウロスサウンドを忠実に再現するべく設計されたモデルです。ケンタウロスは時代によってサウンドが変化しています。そのため、純粋な比較は非常に難しいですが、同モデルは特にオリジナルモデルに非常に近いサウンドを再現していると高く評価されています。
以下は本物のKlon CentaurとSoul Foodを比較した動画ですが、2台の音の変化は素人では気づかないレベルです。15000円程度と、気軽に手を出すことのできる価格帯となっていますので、ケンタウロスサウンドを気軽に試してみたい、という方にお勧めしたい一台です。
Klon Centaur VS Electro Harmonix Soul Food (comparison)
本物のCentaurはもちろん、Centaur系のクローンも軒並みブティック化、値上がりが進むなかリリースされたTC ElectronicのCentaur系ペダル、「ZEUS DRIVE」。実売価格は1万円前後と非常に良心的な価格で、Electro-Harmonixの「Soul-Food」の対抗馬といえる機種でしょう。もちろんサウンドの面でも妥協はなく、回路はオール・アナログ設計。いかなるセッティングにおいても、オリジナルモデルのようにタッチに敏感に反応するアンプライクなサウンドが楽しめます。またオリジナルモデルにはない、低音域を強調する「FAT」スイッチが搭載されており、音作りの幅も広がっています。サイズの小ささも他社製品とは一線を画するポイントで、オリジナルのCentaurの約半分ほどです。IN/OUTも上部に装備されていることも併せて、ペダルボードにも組み込みやすい一台です。
オリジナルモデルを超えた?そんな評価さえも受けているクローンモデルがWalrus Audio VOYAGERです。基本的には前述の2機種と同様にケンタウロスのサウンドをモチーフとして設計されていますが、同モデルの場合は、よりピッキングへのレスポンスが敏感である、という評価を受けています。もちろん、基本的なサウンドのキャラクターはケンタウロスをベースとしていますが、そこからさらに独自の解釈によるアレンジを加えたモデルの一つであると言えるでしょう。
ただ、冒頭でもお話しました通り、ケンタウロスは製造時期によってサウンドが異なりますし、個体差が非常に大きいことでも知られています。そのため、同モデルのサウンドも純粋なケンタウロスサウンドの再現である、とも言えるかもしれません。
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MXRから2018年3月に登場した「M294 Sugar Drive」。こちらも「Wampler Pedals Tumnus」「Movall Audio Minotaur MM-09」と同様のミニサイズのケンタウロス・クローンです。こちらは上述したケンタウロスの後継機種「Klon KTR」と同様の機能であるトゥルーバイパス/バッファードバイパスの切替が可能という点が特徴となっています。エフェクトボードに組み込みやすいサイズはもちろん、ドライブペダルとして手に届きやすい値段も魅力です。
同社のコンパクトなCentaur系クローン、「Sugar Drive」をフルサイズの筐体に「逆移植」した製品です。機能に変更はなく、ミニサイズのSugar Drive同様トゥルー・バイパス/バッファード・バイパスの切り替え機能も搭載しています。フルサイズの筐体に移植されたことで踏みやすさが向上したほか、ノブも通常サイズとなっているためオリジナルのSugar Driveと比較してコントロールがしやすいのも魅力的です。何より、ミニサイズであるが故アダプターからのみしか給電できなかったSugar Driveに対し本機では9V電池も使用できるのは嬉しい限りです。また、Centaur系クローンではあまり見ないピンク・スパークルの筐体を採用しているのもポイントです。
アメリカ・テキサス州のブランド Mojo Hand Fx によるケンタウロス・クローン「Sacred Cow Overdrive」では、オリジナル同様のゴールドカラーにテキサスのソウルフードである牛がデザインされています。ツマミは3つとオリジナルを踏襲していますが、オリジナルセッティング/コンプレッションを高めたセッティングと、2段階切替スイッチを搭載、オリジナリティが加えられたモデルとなっています。
Review Demo – Mojo Hand FX Sacred Cow Overdrive
Mojo Hand Fx Sacred Cow Overdrive
アメリカ・ワシントン州のブランド「Foxpedal」によるケンタウロス・クローン「Kingdom」は、オリジナル同様の3ツマミに加えて2つの切替スイッチを搭載したコンパクト・ペダル。透明感あるトーン/スムースなトーンを切り替える”OD”、クリッピングの量を切り替える”CLIP”、2つの切替スイッチの組み合わせによってケンタウロスのサウンドだけでなく幅広いローゲイン・ドライブサウンドを生み出すことができるようになっています。
オリジナルを意識したゴールドカラーのルックスの他、ホワイトカラーのモデルも用意され、単にケンタウロス・クローンであることにとどまらない主張があることがわかります。
Kingdom
北アメリカ・インディアナ州のエフェクターブランド Wampler Pedals のケンタウロス・クローンペダル「Tumnus」は、オリジナルモデルからは考えられないほどコンパクトサイズ化したミニサイズのオーバードライブ・ペダルです。ツマミの数やボディのデザインなどオリジナルモデルを意識したデザインに、オリジナル同様バッファードバイパスとなっています。
ケンタウロスのサウンドが欲しいけれどエフェクターボードにスペースがない、という悩みを抱えたギタリストに最適なモデルです。
Wampler Pedals TUMNUS vs Klon Centaur Professional Overdrive
Wampler Pedalsによるケンタウルス・クローンです。本機より以前にリリースされていた「Tummus」の機能を拡張したモデルで、Centaurクローンの多くがオリジナルと同一のコントロールを装備する一方、本機にはオリジナルにはない多数の機能が搭載されています。最も大きな違いは、オリジナルがトーンのコントロールは1ノブであるのに対し、本機では3バンドEQが搭載されている点です。これによりより細かな音作りが可能となり、またオリジナルでは出せなかったサウンドまで出力することができます。またゲインの量を変更する「NORMAL/HOT」トグルスイッチや、バッファーのON/OFFを選択できるトグルスイッチも搭載されており、サウンドメイクの面ではもちろんのこと、道具としての汎用性も向上しています。また、これだけの機能が詰め込まれているにも関わらず一般的なコンパクト・エフェクター・サイズであるというのも魅力的です。
神戸元町の楽器店TONE BLUEが国内代理店を務めるブランド「Mythos Pedals」は、アメリカ合衆国テネシー州ナッシュビルのエフェクターブランド。同ブランドのフラッグシップモデルとなる本機は、2020年3月に国内での販売が開始しました。名機オーバードライブ「KLON Centaur」の回路をベースにアレンジを加えて、よりクリアによりざらついた質感を加えられており、高品質なコンポーネントを採用したワンランク上のオーバードライブとなっています。
長年オリジナルのCentaurを愛用していた超大御所ギタリスト、Jeff BeckがCentaurから乗り換えたことで一躍ケンタウルスクローンの代名詞とも言えるペダルとなった、J Rockett Audio Designsの「Archer」。この「Archer」の回路にモディファイを加えて、新たにラインナップに加わったのがこの「The Jeff Archer」です。名前からも一目瞭然であるように、ジェフ・ベックの使用しているArcherをオリジナルとして設計されたモデルで、内部のパーツ数点が変更されています。ジェフの好みに合わせてチューニングされた希少なパーツを使用しており、通常のArcherとはサウンドの傾向も異なっていますが、Archer、ないしはオリジナルのCentaurらしいヘッドルームの広さ、アンプライクなサウンドは健在です。
J Rockett Audio Designs The Jeff Archer
ジェフ・ベックの使用などで一躍有名になったJ. ROCKETT AUDIOの正統派クローン、「THE ARCHER」のデラックスなバージョンです。歪みのキャラクターを形作るクリッピング・ダイオードを7種類から選択できるようになっており、伝統的なCentaurサウンドはもちろんのこと、ブースター向きの薄い歪みからオリジナルのCentaurではなし得なかったようなパンチのあるサウンドまで、幅広い音色を1台でつくることができます。さらに通常のアウトプットに加えて筐体サイドにはスピーカー・シミュレート付きのDI出力を装備しており、PA卓に直接送ったりDTMへのレコーディングに活用したりと用途が幅広いのも魅力的です。
J Rockett Audio Designs THE ARCHER SELECT
WAY HUGEの創設、LINE6やJim Dunlopでのアンプ、エフェクターの設計など、輝かしい経歴を持つエフェクタービルドの鬼才、ジョージ・トリップスがCentaurを再解釈し設計されたのがこの「WM20 CONSPIRACY THEORY」。90年代の登場以降現在に至るまで支持を受け続けているWAY HUGEの「RED LLAMA」をはじめとする伝説的なドライブ・ペダルの数々を設計してきた彼の設計するケンタウルス、というコンセプトは非常に魅力的であるといえます。”CONSPIRACY THEORY(=陰謀論)”というネーミングやビビットなカラーリングにも、彼の遊び心が伺えます。一般的なケンタウルスクローンのサウンドとは少し違ったものを求めているプレイヤーにはうってつけの一台といえるかもしれません。
WAY HUGE WM20 CONSPIRACY THEORY
Centaur系の回路とMarshallのBluesbreaker系の回路の2種類を搭載した2in1タイプのドライブ・ペダルです。それぞれの回路は個別に設けられたフット・スイッチでON/OFFが可能で、片方はかけっぱなし、片方はブースターとして用いるなど用途を分けて使用することも可能です。それぞれの回路はフット・スイッチを長押しすることでキャラクターを変えることもでき、また接続順の切り替えにも対応しているため、1台で幅広いサウンド・メイクや運用方法に対応する優れたペダルです。何より特筆すべきはその価格で、これだけの機能を備えていながら16000円前後(2023年12月時点)で入手することができるのは驚きです。
「TS、Centaur、Bluesbreakerの音色をミックスする」という、まさに夢のようなコンセプトのもと設計されたペダルです。トグル・スイッチでクリッピングの方式を変えることが可能で、上方向でミドルがプッシュされたコンプ感のあるCentaurスタイル、下方向でハイがやや強く出たオープンなBluesbreakerスタイルのサウンドへと変化します。どのモードにおいてもピッキングのニュアンスやギター側のコントロールにしっかりと反応するナチュラルなサウンドという点では一貫しており、とにかく弾いていて気持ちいい一台です。ユニークなケンタ系ペダルをお探しの方にはぴったりのモデルでしょう。
高騰が進む名機の数々を手頃な価格で再現したモデルを販売するWarm AudioからリリースされたCentaur系ペダルです。ルックスもオリジナルのCentaurにそっくりで、音響特性に影響を与えるといわれている特徴的な筐体についてもしっかりと再現されています。筐体上部の「MOD」スイッチはジェフ・ベック所有のCentaurに施されているモディファイを参考にしたもので、ONにすることで低音弦の存在感を高めることができます。もちろんルックスだけでなくサウンドについてもオリジナルと遜色ない素晴らしいもので、これだけのクオリティの製品が3万円以下で購入できるというのは驚きです。
伝説、幻…そんな冠のつくエフェクターといえば、ケンタウロスをほど有名なものはないでしょう。単に製造数が少ないことから過剰に持ち上げられている…そんな声が聞かれることも少なくありませんが、多くのギタリストに愛され、これだけ多くのクローンモデルが生み出されているのは、ケンタウロスが優れたエフェクターであることの何よりの証拠であると言えるのではないでしょうか?
オリジナルのケンタウロスはあまりにも高価で手を出すことができない…そんなあなたはクローンモデルでそのサウンドを味わってみてはいかがでしょう?
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