ギタリストなら誰もが避けて通れない、歪んだ音の追求。エレクトリックギターの音色を考える上で直面する最大の問題であり、また最大のロマンでもあります。かつてBOSS、MXR、Ibanezなど、名ブランドが生み出した歪みエフェクターの子孫たちは、今や数え切れないほどの膨大な数に上り、ギタリストたちの飽くなき追求を体現するかのようです。
そんな歪みエフェクターの世界を見て回るために、何も持たずというのではあまりにも心許ない話。ここでは、現在歪んだ音に求められるイメージと、それを体現しているエフェクターからモデリングアンプまでを、系統立てて列挙。様々なブランドの製品について触れています。歪みペダルを巡る旅の地図として、役立ててみてください。

Ibanez TS-808、BOSS OD-1、DS-1……。歪みペダルには、古くから存在し、定番化しているものがいくつもあります。70年代に生まれたエフェクターが40年以上も経って、なお復刻と冠して売りに出されていたりするのは、その音が愛されているからであり、それぞれのエフェクターに固有の魅力があるからに他なりません。
時代背景的なものもあってか、これらの定番化したドライブペダルの傾向として、中域などに独特のクセを持っていたり、ダイナミックレンジが狭くなったりするケースも多いようです。もちろん、それは悪いということではなく、ひとつの個性と呼べるもので、むしろその個性が好んで受け入れられてこそ、今日まで定番として生き残っているのだと言えるでしょう。
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現在は味付けの少ない、ギターとアンプ本来の音色、”アンプのような生々しい音”が出せるエフェクターが好まれる傾向にあります。そこには繊細なピッキングレスポンスを求めたり、低域から高域までバランス良く発音して欲しい、といったニーズが透けて見えてきます。エレクトリックギターに求められる音色も多様化、複雑化しており、歪みの質のわずかな差にこだわったり、一台のペダルで出音のバリエーションに広さを持たせたいという贅沢なニーズも現在では珍しくありません。
ここでは新定番となりうるポテンシャルを秘めた製品をいくつか見ていきましょう。

近年ではすっかりお馴染みのブランドとなった日本発のVEMURAMですが、その名を一挙に世に知らしめたのがこのJan Rayです。フェンダー・アンプの「マジック6」と呼ばれるセッティングを再現しており、ギターやアンプのキャラクターを損なうことなくプッシュし、ピッキングのニュアンスにも抜かりなく追従する高品位なドライブ・サウンドはギタリストなら誰もが一度は憧れるであろう極上のトーンです。マイケル・ランドウなどの著名なミュージシャンの使用を皮切りに現在ではプロアマ問わず多くのギタリストの足元に置かれている、まさに「2020年代の歪みの定番」と言っても差し支えないほどの高い評価を得た一台です。
型番に「X」と「W」の付く2シリーズ。これは既存のBOSS製品を使った非公式なモディファイに対するBOSS自身の答えとも受け取れるモデルです。「X」はより現代風のサウンドを狙って、デジタル技術を取り入れて作り直されたもの。そして、「W」はこだわりの部品を使いフルアナログで組み上げられ、元のサウンドを大幅にブラッシュアップしたものという位置づけになっています。
この二系統のシリーズ、その開発理念にやや違いは見受けられるものの、旧型のクセを取り除き、より現代のニーズにマッチするサウンドを目指したという点は共通しています。倍音が豊かになることで弦ごとの響きが失われにくくなり、コードを弾いたときに音が団子になりがちな傾向が緩和されています。それでいて一聴してBOSSとわかる個性が残っているところはさすがの一言です。
「OD-1」はBOSS初の歪みエフェクターにして、世界のオーバードライブ初号機。発売当初はLEVELとDRIVEしかなく、サウンドは中域にピークの来る浅い歪みのもの。単体で使う人はあまりおらず、もっぱらブースターとしての使用が多数を占めていたようです。ジェフ・ベック氏の使用により人気に火が付いたモデルであり、今では定番どころとして、その名が広く知れ渡っています。
「DS-1」はOD-1発売後、程なくして発売されます。クセのない無難なディストーションとして、歪みの王道、定番に君臨しています。一度ディスコンになって後、カート・コバーン氏の使用で人気が再燃し再発売。その後、現在でも販売を継続している、屈指のロングセラーモデルです。
そして、これら2機種のグレードアップ版として「OD-1X」「DS-1X」が登場しました。従来の機種の弱点でもあった弱い低域が改善されて音が太くなり、ピッキングレスポンスの良さやアンプライクなサウンドを内包。歪みの質はナチュラルなもので若干細かくなり、サウンドはやや暗めにチューンナップされています。
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OD-1X、DS-1Xを比較している/span>
この2機種はDSPを内蔵し、デジタルプロセッシングで音を作っていますが、デジタル臭さは皆無。現代の技術でこそ実現できたエフェクターです。

Wは「技 WAZA CRAFT」の略で、いずれも部品を一点ずつ吟味し、フルディスクリート回路にて組み上げられた上位版の製品です。このシリーズは歪みのみならず、コーラスなども存在しますが、ここで取り上げたいのは「BD-2W」「SD-1W」の二つです。
「BD-2」はBOSSの歪みエフェクターの中でももっとも汎用性が高く、非常に人気のある一品。Blues Driverという名からは想像出来ない歪みの幅を持ち、ジャンルを問わず使用できるところも人気の理由でしょう。90年代に生まれた遅咲きの定番として、今では様々なギタリストに幅広く使用されています。
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「SD-1」は初代OD-1にTONEを付け足したようなモデルで、その明瞭でコシのある中域にファンが多く、BOSSの中でも最長の販売期間を誇る、超ロングセラーモデルとなっています。
この二機種のWAZA CRAFTバージョンは、従来のものが弱点として持っていたレンジの狭さを改善し、倍音がより豊かに聞こえるようになりました。圧縮感は若干緩和され、弾き手にとってはより自然な歪みが得られます。いずれもシリーズの特色として、モードスイッチで2種の音を使い分けられます。とくにC(カスタム)モードはBOSSの音作りに対するこだわりが透けて見えるようなサウンドになっています。

「MT-2W」は、1991年に登場して以来「メタルゾーン」の名でギター初心者からエフェクターマニアまで広く親しまれてきたBOSSのディストーションペダル「MT-2」を、技 WAZA CRAFTシリーズで復刻させたモデル。MT-2はその名の通りメタルディストーションが得られるペダルとして人気を集めましたが、低域の音痩せが課題となっていたペダルでもありました。
BOSS自身によって新しくモディファイされた本機では、この音痩せの問題を解消。ドロップチューニングのギターや7,8弦ギターの低域もしっかりと出力するワイドレンジなサウンドが得られます。バッファも高品質なものを搭載し、バイパス時のサウンドも高品位。スタンダードモード時はオリジナルMT-2のサウンドを、カスタムモード時はさらにキレのあるトーンが得られるようになっており、往年のヘヴィメタル・ギターはもちろん、モダンヘヴィネス系のメタルサウンドまで対応することができる、まさに次世代のメタルディストーション・ペダルに相応しいサウンドとなっています。

ビッグマフで有名なElectro-Harmonix。60年代から存在する、エフェクターブランドとしては老舗といえる同社ですが、近年気鋭の若いブランドに負けず野心的な製品を次々送り出しています。
「Soul Food」はケンタウロスのクローンモデルとして爆発的にヒットしました。本家ケンタウロスと同じく、ブースターとして使用することで明瞭でコシの入ったサウンドが一枚加わるような存在感を示します。ハイが固くなりすぎないようにトーンをうまくセッティングすることで、どこでも使える汎用的なブースターとなるでしょう。単体での使用では、やや音が固めのローゲイン・オーバードライブといった印象。やはりブースターとしての使用で持てる力を発揮するペダルです。
「Crayon」はピッキングレスポンスの良さ、豊かな倍音成分を感じられ、筐体の絵柄のイメージそのままの明るいサウンドを持つオーバードライブ。歪みの質やサウンドの傾向としては、トランスペアレント系に分類できるほどクセのない素直な音です。クリーンブースターに近いローゲインからハードオーバードライブの域まで、歪みの幅も広く、近年の歪みペダルに求められる要素をしっかり備えた優秀な一品です。
Electro Harmonix Soul Food
Electro Harmonix Crayon

国産のエフェクターブランドとして近年台頭してきたOne Control。エフェクターのみならず、スイッチャーやブレンダー、はてはボード内に貼るマジックテープまで、サウンドのトータルプロデュースという理念を軸に、様々な製品を作り出しています。
そんな同ブランドでもっとも汎用的に使える歪みペダルが、赤い筐体の「Strawberry Red Over Drive」。オーバードライブとはいえ、クリーンブースターからディストーションの域まで使える幅広いゲイン幅とレスポンスの高さを持ち、昨今ドライブペダルとして求められる要素を十分に満たしています。歪みの質は粗すぎず細かすぎず、使いやすいものであり、良い意味で優等生的なサウンド。その点において幅広いジャンルに使用できるところが、この製品の開発理念であったのではないかと思われます。また、One Control独特の小さな筐体はペダルボードへの収まりも良く、使いやすさは群を抜いています。
One Control Strawberry Red Over Drive

One Controlは歪みペダルを多く輩出し、市場から高い評価を集めているものが少なくありません。もう一つだけ紹介しておきましょう。
Golden Acorn OverDrive Special伝説的なDumbleアンプのサウンドをペダルで再現したモデルです。Dumbleアンプは、その温かくダイナミックなオーバードライブで知られ、特にブルースやフュージョンのリードギタリストに愛用されています。このペダルは、そんなDumbleアンプの特徴を忠実に捉えつつ、現代のミュージシャンのニーズに応えるために設計されています。
プレイヤーのタッチや弾き方に敏感に反応し、クリーンからソフトなディストーションまで無段階に音色を変化させます。Ratioコントロールにより、ギターのピックアップの強さに応じてディストーションとコンプレッションの深さを調整可能で、手元のピッキングのタッチだけで歪みの量をコントロールできるようになっています。
One Control Golden Acorn OverDrive Special
プロアマ問わず近年ボードで頻繁に見かける大人気ブランド、Strymonによるオーバードライブ・ペダルです。1台に2種類の歪みを搭載したいわゆる2in1系のペダルで、Aチャンネルにはケンタ系やTS系などのロー・ゲイン、Bチャンネルには比較的ゲインの高いそれぞれ3種類の歪みを備えています。接続順の切り替えや外部コントロール機器の接続にも対応するなど機能面で優れているのはもちろん、サウンドについてもStrymonらしい高品質なトーンです。またそれぞれの歪みはトグル・スイッチで簡単に切り替えることができるため、少々反則技のように感じられますが「歪みエフェクター探しの旅を終わらせる」という目的においてはこれ以上ない1台と言えるのかもしれません。
Strymon Riverside
Strymon Sunset

JHS Pedalsはアメリカ・カンサスシティにて2007年設立。BOSSのBD-2の修理をきっかけにエフェクターブランドとして形をなした新進気鋭のブランドです。設立以来多数の製品を世に送り出し、今では歪みのみならず、空間系から、ヴィンテージコンソールをシミュレートするペダルなどの変わり種も含め、30種以上に登ります。
歪みペダルだけでも5種以上にのぼるラインナップは、シミュレート系がその大半を占めます。その対象はTS系、マーシャル系、はてはSuproアンプの再現などというマニアックなものまで様々。いずれもエフェクターとは思えないアンプライクなサウンド、レンジの広さを感じられるものばかりです。
中でもトランスペアレント系の「Morning Glory」、マーシャルJCM800を再現した「Angry Charlie」はブランドの看板ともなり得る歪みペダルで、非常に高い完成度、汎用性を誇っています。また、Angry CharlieとTS系ブースターを一台におさめた「Sweet Tea」という一粒で二度美味しい贅沢なペダルも存在し、こちらはさらに多様な使い方を模索できる、優れた一台として機能するでしょう。
トーンに定評のあるアンディ・ティモンズも、自身のシグネイチャーモデルをJHSに委託していますが、このブランドの底力はそんなところからも感じられます。
JHS Pedals Morning Glory
JHS Pedals Angry Charlie V3
JHS Pedals Sweet Tea
Voyager MkII
アメリカ・オクラホマ発のエフェクターブランド「Walrus Audio(ウォルラス・オーディオ)」は、ユニークなデザインとサウンドの探求心で多くのギタリストを魅了しています。単なる「定番系の再解釈」ではなく、オリジナルのキャラクターを持ちながら実用性の高い設計が特徴で、ボードに加えることでプレイヤーの個性を引き立ててくれるブランドです。歪みペダルで特に人気が高いのが「Voyager」「RON HORSE」の2点。
「Voyager」は、軽いクランチからミッドゲインのオーバードライブまでをカバーするアンプライクな質感の歪みが特徴。プレイヤーのタッチに非常に敏感で、ピッキングのニュアンスやギター側のボリューム操作にも素直に反応するオーバードライブ・ペダルです(現行モデルはMkII)。
「IRON HORSE」は、クラシックなハイゲイン・ディストーションをベースにしつつ、よりモダンでタイトな低域と扱いやすい音圧感を備えたモデルです。ロー〜ミッドの押し出しが強く、パワフルなリフや重厚なバッキングに最適。ゲイン幅やクリッピングモードの選択肢もあり、多彩なジャンルに対応します。
どちらのペダルも、あなたのボードに独自のキャラクターをもたらしてくれるはずです。
Walrus Audio Voyager MkII
Walrus Audio IRON HORSE

国内プロ・ミュージシャンを中心に厚い信頼を寄せられているFREE THE TONEの創立15周年プロジェクトとして発売されたオーバードライブ・ペダルです。ブラック・フェイス期Fenderのアメリカらしいブルース・トーンにインスパイアされており、ほどよいコンプレッション感と粘りが魅力のペダルです。歪みの核となるICには防振とシールディングを兼ねたプレートを搭載し、ノブには不必要な倍音成分を抑制する真鍮製のものを採用するなど、サウンドに少しでも影響を与える要素は徹底的に検証を行った上で最適なものを採用しており、FREE THE TONEの本気を感じられる極上のサウンドが楽しめる一台に仕上がっています。
FREE THE TONE FM-1V
FREE THE TONE SS-1V
定番には他に代えがたい魅力があります。上で少し触れている通り、その個性は時にクセと写ることがあるものの、定番となっているのはその音が古くから愛されているからこそ。
しかし、銘機と呼ばれているエフェクターには、オリジナルが遙か前に販売停止となり、幻の品と化しているものも少なくありません。万一見つけることが出来ても、到底手に入れられないほどのプレミアム価格が付いていたりします。そんな定番どころのサウンドを得たいとき、オリジナルの特性を引き出してシミュレートしたペダルは強い味方。また、エフェクターのみならず、入手困難なアンプのサウンドを再現しようという野心的な製品も、昨今増えてきています。
| 系統名 | 歪みの質感 | 最適な使い方 |
|---|---|---|
| TS系 | ソフトクリッピングで中域が持ち上がり、低域が締まる。 滑らかで太く、コンプレッション感が強い。 |
中域強調のメインドライブやソロブースト、クランチの補強に適する。 |
| マーシャル系 | 荒々しくリッチな倍音と中〜高域の存在感。 温かみと抜けのバランスが良い。 |
ロック系のメイン歪みとして。クランチからハードなリードまで幅広く使える。 |
| フェンダー系 | クリアでナチュラル、ピッキングに敏感。 過度なコンプレッションがなく透明感がある。 |
軽い歪み付加やナチュラルなバッキング、クリーントーンの補正に向く。 |
| ケンタウロス・クローン系 | 原音を保ちつつ中高域にわずかにブーストが入る。 トランスペアレントで上品な歪み。 |
クリーンアンプのゲインブーストや、微妙な歪み足しに好適。 |
| ダンブル系 | レスポンスが非常に速く、太くスムーズな音像。 倍音豊かでワイドレンジ。 |
タッチに敏感なリードプレイやメロウなクランチ用途で真価を発揮。 |
| トランスペアレント系 | 原音を崩さず自然に歪む。 EQ変化が少なく、クリーン寄りの質感。 |
アンプ本来の音を活かしつつ微量ゲインを加えたい場面に最適。 |
オーバードライブ系統比較

オリジナルは、中域に独特のコシを感じるオーバードライブの銘機「Ibanez チューブスクリーマー TS-808」。元々は単なるオーバードライブだったのが、アンプをプッシュするブースターとして使われ出し、今ではその用途がもっぱら主流となっています。オリジナルは伝説的なブルースギタリスト、スティーヴィー・レイ・ヴォーンが使用していたことでも有名。
シミュレートのペダルもオリジナルと同じく、ゲイン幅が狭く、軽いオーバードライブといった類のものが多いので、ブースターとして使用し、中域を持ち上げたスムーズなリードギターのトーンを得るというのがまず思いつくところ。フェンダーアンプをプッシュして、レイ・ヴォーンのように、太いブルーストーンを得ることも可能です。
TS系はハマる人はとことんハマる、魅力に溢れたサウンドを持っています。色んな使い方が出来ますし、オーバードライブの定番として一度このカテゴリのものを使用してみるのも良いでしょう。
おすすめの用途:
中域強調のメインドライブやソロブースト、クランチの補強に適する。
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チューブスクリーマーってどんなもの?TS系オーバードライブ特集

マーシャルアンプの音をエフェクターで再現したものがこのカテゴリに入ります。一口にマーシャルと言っても、初期のヴィンテージ系マーシャルはウェットな歪みとパンチの効いたクランチ、時代が後になるほどハードロック的ハイゲインのものが増えるので、マーシャル系といっても、どちらのサウンドを求めるのかで、やや使い方、選び方は変わります。
初期のヴィンテージマーシャルをシミュレートしたペダルでは、Led ZeppelinやAC/DCのような、図太いブルースロック系ドライブサウンド。最近のJCM2000などを模したペダルならば、メタルでリフを刻むのも可能なウルトラハイゲイン。様々なジャンルに対応できるものが揃いますが、やはりマーシャルといえばヴァン・ヘイレンのような80年代ハードロックのサウンド。このサウンドを求めるならば、真っ先にこのカテゴリから選ぶべきでしょう。
一貫して歪みが粗くジャキジャキしたサウンドを持っているので、ロックには最適。その反面、フュージョン音楽のようにキメの細かいスムーズなサウンドは苦手です。
おすすめの用途:
ロック系のメイン歪みとして。クランチからハードなリードまで幅広く使える。
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マーシャル系歪みエフェクター特集

フェンダーはエレキギターだけでなく、ギターアンプの世界でもトップに君臨すると言って差し支えないでしょう。フェンダーのアンプは1940年代の半ばに生産が始まっており、今に至るまで膨大な数の製品が世に送り出されています。特に最初期の「Tweed(ツイード)」、真っ黒な革張りの「Black Face(ブラックフェイス)」はこれぞフェンダーと言える代表的モデルで、どちらかのアンプサウンドの傾向を狙った他社製エフェクターがリリースされています。フェンダーアンプのサウンドを再現しているということもあり、多くはクランチ〜オーバードライブ程度の歪みが中心となっています。
おすすめの用途:
軽い歪み付加やナチュラルなバッキング、クリーントーンの補正に向く。
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《フェンダーアンプのサウンドを再現》フェンダー系エフェクター特集

オリジナルは「Klon Centaur(ケンタウロス)」。布袋寅泰氏やB’zの松本氏が使っているということでも有名となったペダルですが、オリジナルは元々が製造数も極端に少なく、凄まじいプレミアム価格で店頭に出回る伝説的な一品となっています。そういう事情もあってか、そのクローンモデルが山のように登場し、現在では一大カテゴリを築き上げるに至りました。
サウンドは嫌な味付けのない素直なもので、特にブースターとして使用した際には、一本筋の通ったような太さが得られます。その変化加減はまさに絶妙であり、オリジナルが支持される理由はそこにこそあります。
ブースターとして使用するギタリストが多いですが、軽いオーバードライブペダルとして単体で使用しても、優秀なものが少なくありません。
おすすめの用途:
クリーンアンプのゲインブーストや、微妙な歪み足しに好適。
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ケンタウロス・クローン系オーバードライブ特集

アンプデザイナーのハワード・ダンブル氏が、ギタリストと直の面談によってサウンドを自らデザインして作り出すというダンブルアンプ。ラリー・カールトンやスティーヴィー・レイ・ヴォーンなど、使用者も錚々たる顔ぶれです。
Blackface期のフェンダーアンプをモデルにチューンナップされたというそのアンプは、生まれる過程からもわかるようにもともと品が少なく、幻の逸品という扱いを受けています。それゆえにこのカテゴリにも多数の再現エフェクターが存在します。
乾いたアメリカンなサウンドとナチュラルな歪みが特徴で、良い意味で非常に品の良いサウンドが得られます。ギターを弾く人でこの音が嫌いな人はおそらくいないだろうと思われるダンブル系の音色。上のマーシャル系とは対照的に、ブルース、フュージョン系にやはり別格の存在感を発揮するでしょう。
おすすめの用途:
タッチに敏感なリードプレイやメロウなクランチ用途で真価を発揮。
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ダンブル系オーバードライブ・エフェクター特集

ギターとアンプ本来の音を大切にした、味付けの少ないオーバードライブというカテゴリで「トランスペアレント(透明)」と名付けられているエフェクター群。Paul Cohcrane(ポール・コクレーン)の「Timmy Overdrive」がそのはしりとされています。単体ではあまり歪まないものが多いですが、低音から高音にかけてダイナミックレンジが広く、ピッキングに対するレスポンスの良さや、ギターのボリュームとの親和性、追従性に優れる傾向にあります。そして、それはそのままアンプらしいサウンドというところに直結しています。
単体の歪みとして、ダイナミクスが重要視されるブルースや、軽めのフュージョンなどには適したサウンドが得られ、ブースターとしてアンプをゲインアップするにも優秀。妙な個性がない分、様々な利用法があり、汎用性の高い製品が揃っています。
おすすめの用途:
アンプ本来の音を活かしつつ微量ゲインを加えたい場面に最適。
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トランスペアレント系ローゲインオーバードライブ
「こういう場面で使いたい」といったように、自分が必要としている歪みサウンドを具体的に理解していれば、望んでいるペダルに近づきやすくなるでしょう。

TSに代表されるオーバードライブペダルは、アンプの前に接続してレベル(音量)を上げることで過入力を誘発し、足りないゲインを補ったり、サウンドのスパイスとして利用するという使われ方が多用されています。このような使い方を「ブースター」と呼び、あまり歪まないオーバードライブペダルや、それ専用に作られたブースターという名の製品を使うのが一般的です。
そんな中、2000年代に入ってから、ブースターは同じブースターでも、一切の歪みを持たない、クリーンなブースターが流行し出しました。これを「クリーンブースター」と呼称し、Z.Vexの「Super Hard On」がその先鞭とされています。音量だけを上げるものがほとんどですが、EQで音作りを並行して行えるものや、接続するだけで若干ながら気持ちの良い味付けを足してくれるものもあります。
ブースターの使用法は様々に考えられ、単に音量だけを上げてソロ時にプッシュ、歪みエフェクターあるいはアンプの前に繋いでゲインアップを図る、エフェクターボードの一つ目に常時ONで接続してバッファとして利用などなど、縁の下の力持ちとして活躍するでしょう。
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歪みエフェクターとしては最も古い歴史をもつファズ。波形が完全に変形するほど強烈な歪みはマニア的な人気があります。ジミ・ヘンドリクスをはじめとする、60~70年代初頭にわき起こった実験的なサイケデリックロックのサウンドには、ファズ以外考えられないものも多く、まさにロックの歴史を作ってきたサウンドでもあります。
一見、破壊的な歪みのイメージがつきまとうファズですが、ヴァイオリンのようなトーンで名高いエリック・ジョンソンも「Fuzz Face」を使用するなど、使い方によっては多様なサウンド、スパイスとして利用することも可能です。現在では一言にファズといっても、それ一台でオーバードライブ的な音を得られるものも登場しており、選択肢は多岐に渡っています。
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ツインペダル式の最大の利点は、一台で音色を複数使い分けられること。二つのスイッチはメインのオンオフとブーストスイッチ、という使い分けが多いですが、機種によってはクランチとディストーションなど、アンプのように2チャンネルを別個に使い分けられるもの、個別にオンオフ可能でミックスしての出力も可能と、完全な二台一組となっているものも存在します。
このカテゴリのものを選択する際にはやはり、自分の使い方をベースとして選んでいくべきでしょう。音量や歪みを大きくするだけのブースト機能で十分なのか、アンプをクリーンにした上でクランチ、ディストーションの仮想3チャンネルとして使用するのか、歪みの音色にバリエーションが欲しいのか。非常に多岐に渡る利用法が想定できますので、自分のスタイルにしっかりと合ったものを選んでみましょう。

ハードロック・ヘヴィメタル系をメインに演奏する人であれば、外せないのがハイゲインサウンド。一口にハイゲインといっても、マーシャル系のジャキっとしたサウンド、メサブギー・レクティファイヤー系の切り裂くようにメタリックなもの、あるいはヴァイオリンのようにスムーズなリードギタートーンを想起する人もいるでしょう。そのサウンドはギタリストの数だけあると言ってもいいほどです。一昔前まではハイエンドエフェクターは軽めのオーバードライブばかりでしたが、現在ではハイゲインのものもかなりの数が登場しています。様々な音色のものが存在し、望んだ音に近いものはかならず見つかるはずです。
また、このカテゴリのエフェクターはハイゲインを謳っていますが、ゲインを下げても本職のオーバードライブを凌ぐサウンドを持っているものが多く、一台で多様なジャンルに対応できるのも魅力です。自分に合ったサウンドのものを探してみてください。
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足下にエフェクターのように設置して使える、フロアタイプのプリアンプ。アンプのインプット手前に接続する通常のエフェクターとは違い、アンプの代わりとしてギターの音を作り、リターン端子に接続という、少し違った運用をします。足下にアンプの半分が存在しているようなもので、常に安定した自分好みのサウンドが得られるのが魅力。エフェクターボードだけで音作りの大部分が完成するのはやはり安心感があり、リハーサルスタジオやライブハウスなどで、備え付けのアンプが弱っていても最悪の自体は防げます。
難点はやや製品の数が少ないところ。元々ベース用が多い分野であり、歪んだ音が作れるものは未だ選択肢が限られてきます。
製品の特性上、PCやヘッドホンへの出力端子が付いていたりするものもあり、そういう機器であれば練習や録音にも有効。プリアンプはエフェクター以上に音色に直結する重要な部分なので、選択の際には望みの音が得られるかどうか十分に注意を払う必要があります。
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Line 6のPODに端を発するアンプモデリング、アンプシミュレーター。その究極形、最高峰として君臨するのが以下の3機種。プロアーティストのための機材縮小を目的として製作されたFractal Axe-Fxを皮切りに、技術の粋を尽くして緻密にモデリングされたアンプ、エフェクターを一台に詰め込むというスタイルで登場しました。
まさに新世代の定番であり、その完成度の高さには唖然とするしかありません。ハイエンドギターが一本買えるほどの値段がしますが、これさえあれば何もいらない、を地で行く品ばかりです。

正式名称を「Kemper Profiling Amplifier」と言い、その名の通り、プロファイリングという技術が搭載されているのが最大の特徴。その機能は、実際のアンプを本機に接続するだけで、そのアンプの振る舞いを正確にプロファイルしサウンドを模造するというもので、ギターを弾く必要さえないという、驚くべきテクノロジーです。
専用のパワーアンプを内蔵できるところが他社製との最大の差となっている部分で、アンプヘッドとしてキャビネットにそのまま接続できます。ギタリストはライブの際、後ろから音が出ているのが普通であり、ミキサーに直接送るのを嫌がる人はかなり多いもの。完全にアンプヘッドの代替品として使えるという点は、他の機種にないだけに魅力的な仕様です。ヘッドとして使用した場合の出力も600W(8Ω)、300W(16Ω)と十分です。
いかにもなアンプヘッド然としたルックス、コントロール類とつまみを大量に配置した外観とインターフェイスは、直感的に操作でき、アナログの操作感を好むギタリストに寄り添ったものといえます。
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Fractelの「Axe-Fx」シリーズは、このカテゴリの製品では初代にあたり、現在「Axe-Fx II」、そしてそのメモリー量を増大した上位バージョンの「Axe-Fx II XL」がフラッグシップモデルとして存在しています。Tone Matchという、音色を取り込んでそれを完全に再現する機能が搭載され、アンプの音をそのまま取り込むほか、通常のオーディオから読み込むことも可能。
スピーカーボックス内の響き、実際のホールの響きなどをデータ化したIR(インパルスレスポンス)は、DAWソフトなどでリバーブプラグインにも使われているもの。「Axe-Fx II」では、キャビネットの再現部分にてこのIRを非常に緻密に活用しており、IRだけのファイルが別売りされているほどこだわっている箇所です。
マイキングの響きまで含めてのトータルな音作り、ラックマウントエフェクターの形で機械然としたルックス、いずれもアンプの代わりというよりはレコーディング機器を想起させるものになっており、パワーアンプを内蔵しキャビネットに接続できるKemperとはその辺りの開発理念がやや異なっていると言って良いでしょう。国内のプロギタリストの多くがこのFractalシリーズを導入していることも、情報共有に大きなアドバンテージがあります。
ちなみに、「FM3 MARK II TURBO」というフロア型の下位グレードのものが存在します。下位とはいえ音色はAxe-Fx IIと同等。ハイエンドなAxe-Fxシリーズ中もっともコンパクトで求めやすい価格のおすすめモデルです。
Fractal Audio Systems FM3 MARK II TURBO

アンプシミュレーターのパイオニア、Line 6が送るアンプ/エフェクト・プロセッサー「Helix」シリーズ。フラッグシップモデルの「Helix」は、あくまでもライブ演奏を前提としたフロアタイプにこだわった外観を採用し、PODシリーズを最高峰まで突き詰めたという印象の製品です。処理能力の向上のためにデュアルDSPを採用し、キャビネットの響き成分にはサードパーティ製のIRがインポートできます。アンプのモデリングには、電源のリップルノイズに至るまで細かい計測の元に再現され、オリジナルと寸分違わないサウンドを実現しています。
コントロール類の不足を補うため、フロアタイプでありながら可能な限りの大型ディスプレイを採用。また、音色作成の際にフットペダルを利用することで、演奏中に手を止めてつまみを回さねばならない煩わしさから解放されるなど、操作性には独自の工夫も光っています。フットスイッチを色分け出来る機能や、外部FX併用のためのループを4系統も装備しているところなどは、ライヴを前提にしたと思われる仕様。上記の二機種が、元よりフロア型の「Fractal AX8」を除き、いずれも高価な専用フットコントローラーを増設しなければならないことを考えると、これ一台でステージが成り立ってしまうところは大きなアドバンテージです。
HXシリーズはHelixのサウンドを継承した小型アンプ/エフェクト・プロセッサー。コンパクトな筐体でHelix譲りのサウンドを出力します。
Line 6 Helix
Line 6 HX Stomp
Line 6 HX Stomp XL
かつて偶発的に発生したアンプの過大入力。ギタリストは長い間、歪みを生み出すためにはそれを利用するしかありませんでした。いまやアンプ本来の歪みを始め、アナログエフェクターからデジタル制御での音作りまで、製品数を考えると優に万を超える選択肢があります。
自前のチューブアンプを持ち込んで音色を作るのは、他に代え難い魅力がありますし、ギタリストならばそうであるべきという考えもいまだに根強くあるでしょう。しかし、経済的なものや運搬を考えた場合に、それが出来ないギタリストもまた数多く存在します。また、このご時世にいまだ根強い真空管信仰に辟易しているギタリストだっているかもしれません。
単なるアンプの代替ではなく、自分のスタイルに合った音作りの素材として、積極的にエフェクターやモデリングの音を利用してみる……大量にある選択肢を見ていると、そんな時代になってきているのではないかと感じます。
ジミ・ヘンドリックスも愛用したエフェクト、オクターブファズの世界
破壊的ファズから滑らかドライブまで——Fuzz Faceの幅広い音世界
Tone Bender徹底解説:ファズの原点が築いたロックサウンドの系譜




(投票数416人, 平均値:2.69)



(投票数346人, 平均値:3.49)



(投票数246人, 平均値:3.58)



(投票数241人, 平均値:3.54)



(投票数225人, 平均値:3.68)



(投票数220人, 平均値:3.50)



(投票数218人, 平均値:3.56)



(投票数205人, 平均値:3.48)



(投票数194人, 平均値:3.47)



(投票数178人, 平均値:3.66)
