
Tone Bender(トーンベンダー)は、世界初の歪みエフェクターであるMaestro Fuzz-Toneをモチーフとして、1965年に制作されました。後に登場するFuzz Faceの手本になったとも言われる、このTone Benderについて深く掘り下げていきましょう。
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Tone Benderはもっとも初期のファズペダルとして、Fuzz FaceとBig Muffとともに並び称されており、60年代を通して、初期バージョンからMk.IIIまでバージョンアップを重ね、ロック黎明期において多くのギタリストに愛されました。現在もColorsound名義の現行品から、往年のサウンドを踏襲したトリビュート・ペダルまで、世に多く出回っています。
Maestro Fuzz-Tone(AIによる再現イラスト)
時は1965年。イギリスのセッションギタリストであったヴィック・フリックは、史上初のファズペダルであるMaestro Fuzz-Toneのサウンドを踏襲しつつもさらに長いサステインのものを要求しました。そして、その要求に答えたのが、電気技師のゲイリー・ハーストでした。
65年の初頭には、早々に木製の特別なボックスを筐体とした第一号が完成。Fuzz-Toneと同じく3つのトランジスタを利用して歪みを得る設計になっていました。この最初期のプロトタイプのうちの1つはジェフ・ベックに提供されたと言われており、ヤードバーズの楽曲でそのサウンドを聴くことができます。
販売元の楽器店Macari’s Musical Exchange(イギリス)は、量販の際に木製ケースを鉄製に変更し、”Sola Sound”というブランドを立ち上げ、その名義で売り出しました。”Sola Sound”はシリーズを通して筐体に控えめに記されており、Tone Benderの本家として知られています。Mk.IからMk.IIの使用者には当時の有名なロックギタリストが名を連ねており、Mk1.5についてはジミ・ヘンドリックスが愛したFuzz Faceの直接的な影響元と言われています。
このようなエピソードからは、Tone Benderが60年代を代表するサウンドの片翼を担っていたということがよくわかります。
Tone Benderの音は特に60年代のギターサウンドにおいてよく聴くことができます。最初期のMk.Iにおいてもっとも有名なのはジェフ・ベック、そしてデヴィッド・ボウイのバックを務めたミック・ロンソンでしょう。ジェフ・ベックはヤードバーズ「Heart Full of Soul」が有名で、高域にピークのあるファズっぽいサウンド、ミック・ロンソンはデヴィッド・ボウイの名盤「ジギー・スターダスト」で度々使用しており、こちらではよりオーバードライブ的な音を聴くことができます。
Mk.IIはいわずとしれたレッド・ツェッペリンの初期のサウンドがそれで、ジミー・ペイジはファーストアルバムではテレキャスターとの組み合わせでエッジの効いたハードなサウンドをもたらしています。Mk.IIIの使用者として有名なのは、90年代に登場したシューゲイザーの雄、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのケヴィン・シールズ。のちにケヴィンの紹介から、ダイナソーJRのJマスキスが使用するようになり、ファズが顧みられなかった70年代後期~80年代を飛び越えて、90年代に入って再び陽の目を見ることになった好例と言えます。
0:13~のオープニング映像。右上に黄色いTone benderが写っている
Tone Benderはいわゆるファズらしい毛羽立ったサウンドと攻撃的な高域を特徴としますが、現在の歪み系ペダルに通じるような粘り気、ギターボリュームとの高い追従性を兼ね備えています。ゲインを下げるとオーバードライブのようなナチュラルな歪みも得ることができ、この音色の幅広さも大きな魅力の一つです。

Tone Bender Mk1.5についてはFuzz Faceの元でもあるため、音色はかなり近しいものとなっていますが、Mk1.5以外について言えば細かな違いがあります。Tone Bender Mk.Iにおける刺すような高域、毛羽立ちはFuzz Face以上であり、Mk.IIやIIIにおける分厚く粘り強いサウンドはTone Benderスタイルの真骨頂。
一方、Fuzz Face最大の魅力はやはり、ギターボリュームとの追従性。ストラトのボリュームを絞ったときの、軽やかなオーバードライブにキラキラした成分が融合した、魅力あるサウンドはやはりFuzz Faceならではです。

アメリカ生まれのBig Muffは何と言ってもその重さと分厚さに特徴があります。ギターで音の壁を作るようなダイナミックなサウンドは、Big Muffのもっとも得意とするところで、繊細なTone Bender系のファズではなかなか得られない質感でしょう。
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Tone Benderはその歴史の中で、Mk.I、Mk1.5、Mk.II、Mk.III/IVと複数のバージョンがリリースされ、それぞれ異なる回路設計とサウンド特性を持っています。
| モデル | トランジスタ | 配線 | 特徴等 |
|---|---|---|---|
| Mk.I | Mullard OC75 x 1、TI 2G381 x 2 | 空中配線 | よく暴れる、荒々しく毛羽立ちの多いファズらしい歪み、サウンド幅の広さは随一 |
| Mk1.5 | Mullard OC75 x 2 | 基盤上ワイヤリング | 飽和感が希薄になりナチュラルになり高域もまろやかに、Fuzz Faceの影響元 |
| Mk.II | Mullard OC75 x 3 (OC81D x 3) | 基盤上ワイヤリング | 1.5に比べて刺すような高域が復活、歪みの幅も広くパワフル、OC81Dが使われた別バージョンが存在 |
| Mk.III/IV | Mullard OC71 x 3 | プリント基板 | トーン回路(ローカット)の増設、現代のペダルと遜色ないゲイン幅の広さと使いやすさ、プリント基板のため個体差が少ない |
バージョン毎の仕様と特性
AIによる再現イラスト
最初期モデルはモチーフ元となっているMaestro Fuzz-Toneの回路を踏襲して、Mullard OC75が1つ、Texas Instruments 2G381が2つ、というトランジスタの組み合わせが使われています。電気的には3Vで動いたFuzz-Toneと違い、Tone Bender Mk.Iは現代のエフェクターと同じ、9V駆動になっています。
ザクザクとした毛羽立ちが目立ち、かなり強烈に歪み、飽和感も強く、Mk1.5以降の各種バージョンに比べても異質なサウンドです。右側のAttackコントロールはほぼ歪み量(ゲイン/ドライブ)とイコールですが、ゼロに近いあたりでナチュラルなオーバードライブ、そして半分を超えた辺りで音が潰れたようになり、ファズ独特の飽和感やチリチリした成分が発生します。最大まで上げるとフィードバックさえ起こすようになります。Mk.II以降に比べるとアクの強いMk.Iですが、軽やかなファズから猛烈な歪みまで得られる音は幅広く、独特の魅力があります。
AIによる再現イラスト
1966年、初代が生み出された次の年には早くも改良を施したバージョンが登場。次の世代のものがMk.IIと銘打たれているため、それと初代の間ということで、一般的にMk1.5と呼ばれています。
ケースは鉄製からアルミ製へ変更され、空中配線だった1と違い、このバージョンからは基盤上にパーツが配置されるようになりました。Mullard OC75が2基という設計は初代との大きな違いで、トランジスタの構成の差から音色も初代とはかなり違い、音の密度が濃く、飽和感が希薄になり、よりナチュラルなサウンドになりました。突き刺すような高域もまろやかになり、初代よりもある意味で使いやすさを感じるものとなっています。ジミ・ヘンドリックスの使用でファズの代表選手に躍り出たArvitar Fuzz Faceは、このMk1.5の少し後に発売されることになりますが、回路がほとんど同じであり、直接的な影響を受けていると言われています。
AIによる再現イラスト
Mk1.5から数ヶ月、新たなバージョンのTone Benderが発売されます。Mk.IIはレッド・ツェッペリンの初期にジミー・ペイジがレコーディングに使用しており、その関係からか数多いTone Benderでも特によく知られています。サウンドはMk.Iと1.5の間ぐらいの特性を持ち、ファズらしい暴れる要素と、オーバードライブらしい滑らかな質感がうまく同居している印象。1.5に比べて再び刺々しさが復活しており、より攻撃的なイメージです。
Mk1.5までと違い、心臓部のトランジスタにMullard OC75を3基使用。中にはOC81Dを3基使用しているものもあり、こちらはもともとの生産量が少ないのもあり、現在非常に希少になっています。OC75が使われたモデルのほうが音がはやく飽和し、ヘッドルームが低く、OC81D使用モデルは少し余裕があります。そのため、OC75のほうがよりファズらしいサウンドであり、ボリュームへの追従性などはOC81Dのほうが上に感じられます。
このMk.IIはVOXやマーシャルのためのOEM製品があり、それぞれVOX Tone Bender、Marshall Supa Fuzzという名で出回っていました。
AIによる再現イラスト
60年代終わりごろに発売されたMk.III、Mk.IVは同じ構造を持ち、名前だけが違うものが流通していたようです。このバージョンからプリント基板が使用されるようになりました。Mk.IIIの時期からはSola Soundに変えて”Colorsound”という新たなブランド名が付けられたものが多くなり、さらにMk.II以上にOEM製品が多く、有名なVOXのほか、Rotosound、Parkなど、別のブランド名が付けられたものが多く存在する上、内部が若干違うものが混じっていたりするため、全てを網羅するのはほぼ不可能と言った状況。
大元のSola Sound製(Colorsound製)はトランジスタにMullard OC71が3基配置されています。これまでのものとの最大の差としてはトーン回路が付け足されている点。70年代も入ってしばらくすると当時の状況からシリコン・トランジスタに置き換わり、ゲルマニウム・トランジスタが使われた製品は姿を消していきました。
数多くのマイナーチェンジ版が出回っているため、音色を一口に語るのが難しい状況ですが、敢えて述べるならば、ファズらしいチリチリした質感から滑らかなオーバードライブまでかなり幅広いサウンドが得られるペダルといった印象です。新しく付け足されたトーン回路はローカット的な働きを見せ、これがそのサウンドの幅の広さを得るのに一役買っています。いわばMk.I~Mk.IIまでのいいとこ取りをしたような性質で、歴代Tone Benderのなかでも使いやすさでは随一と言って良いでしょう。
Tone Benderに限らず、往年のファズペダルは回路が簡単なため、数多くの方が自作をされています。この際に問題となるのがトランジスタが手に入らないことで、特にゲルマニウム・トランジスタについてはかなり手に入りにくく、OC75はすでに入手不可と言って良い状況です。
代替品としてはAC128、KNT275、2N404などが利用されるケースが多いようです。KNT275はオリジナルのFuzz Faceに使用されたことでも有名で、Tone Bender Mk1.5の回路を元にトランジスタをKNT275にすれば、それはもはやFuzz Faceとほぼ同じとなり、Analog Manのような有名なブランドにもKNT275を利用したFuzz Faceクローンが存在します。2N404はZ.Vex Fuzz Factoryにも使用されており、現在手に入るゲルマニウム・トランジスタの中ではかなり安定した動作が持ち味です。
キットを販売している業者もあり、クローンペダルを購入するよりも安くで作れる上に、慣れてくれば部品の定数変更によるカスタマイズもできるため、自分だけのオリジナルTone Benderを作ることもできます。
まさにロックの歴史を作り上げたと言って過言ではないTone Bender。そのサウンドはファズらしい派手さとオーバードライブ的な甘さが同居し、多くのギタリストに愛された理由がよくわかるものです。マルチエフェクターのファズペダル・シミュレーションに含まれていることもあるため、もし使えるのであれば一度試してみてはいかがでしょうか。ロック好きなギタリストであれば、かならずその音に魅力を感じるはずです。
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