万能型オーバードライブ:BOSS BD-2の魅力とは2016年3月10日

万能型オーバードライブ:BOSS BD-2の魅力

世界には無数のエフェクターがあり、中でも歪み系に至っては万を数えるほど存在します。そんな多種多様な歪み系エフェクターの中でも、BOSS BD-2 Blues Driver(ブルースドライバー)は最も愛され、使用者の多いエフェクターの一つでしょう。

今回はBD-2の人気の秘密を探ると共に、他社から登場するモディファイ製品、本家BOSSのモディファイBD-2Wについて紹介していきます。


  1. BOSS BD-2とは?
  2. BD-2:人気の理由
  3. BD-2の使い方
  4. BD-2のモディファイ品

BOSS BD-2とは?

BOSS BD-2

いまや定番どころとして確固たる地位を築いているBD-2ですが、他社の定番機種Ibanez TS-9や、MXR Distortionなどに比べると、ずいぶんと遅く生まれたモデルで、発売は1995年となっています。フェンダー系ツイードアンプ的なサウンドを狙って開発されたペダルであり、粗い歪みにジャキッとした高音が持ち味です。

従来のオーバードライブのようにダイオードでクリップさせるのではなく、またディストーションのように増幅した波形を刈り取って歪ませるのでもなく、基本となる音を作った後にアンプと似たディスクリート回路を通して歪みを得るような構造になっています。この二段階での音作りをエフェクターに内包するのは当時としては新しい発想であり、現在のダンブル系オーバードライブの始祖的な位置づけとしてもいいかもしれません。
※ちなみに、BD-2という名ですが、BD-1は存在せず、単にBOSSが新しさを演出したかったというだけのようです。

使用ギタリストは、ラリー・カールトン、ポール・ウェラー、山口一郎(サカナクション)山中さわお(the pillows)、真鍋吉明(the pillows)、藤原基央(BUMP OF CHICKEN)、田渕 ひさ子(toddle、blood thirsty butchers、NUMBER GIRL)などなど。国内のアーティスト、特にロック系ギタリストから高い支持を集めています。

BD-2:人気の理由

BD-2人気の理由として、まず第一にその万能性があります。ブルースドライバーという名の通り、ブルースに使うも良いですし、ゲインを上げると、軽いディストーションと呼べるぐらいまで歪むので、そこそこハードなロックでも大丈夫です。また、後段のアンプやエフェクターをプッシュするためのブースターとしても活躍します。ニルヴァーナの故カート・コバーンはBOSSのディストーションの前段にこのBD-2をブースターとして使い、あの破壊的な音を作り出していました。この普及品の価格帯でここまでの万能性を誇るモデルは、他にはほとんど存在しません。

次に、その表現力が挙げられます。最近では高価なハンドメイド系のブティックペダルが山のようにありますが、どのペダルにしても「真空管アンプのような」「ピッキングによく追従する」といった表現で、サウンドの良さが語られます。BD-2はこの比喩表現がそのまま当てはまります。ピッキングの強弱に歪みが追従するので、弱く弾くと軽く小さな音、強く弾くとしっかりと歪んだ大きな音という風に、ピッキングの強弱に敏感に反応し、それをそのまま演奏に活かすことができます。これは元より良いアンプの特性の一つですが、それを明確にエフェクターで実現したのもBD-2が最初ではないでしょうか。

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BD-2の使い方

ツマミはLEVEL、TONE、GAINの3つ。GAINを絞り目にして、TONEを上げすぎずに使用すると、適度なコンプレッション、ピッキングの強弱やボリュームにしっかり反応してくれる、ブルース系のソロにぴったりなサウンドが得られます。TONEをうまく調整して歌の邪魔にならないよう設定することで、グランジ、パンク系や昨今のJ-POPにも多い、かき鳴らし系のバッキングにも最適な音が見つかります。

またGAINを上げると、ハードに歪ませることができます。その歪み量はディストーションに迫るほどで、かなり荒々しいロックでも演奏出来ますが、歪みの質はどちらかというとファズっぽいものに近く、あまりスムースな印象を受けないざらついたものなので、ロングトーンを多用するリードギターや、パワーコードで刻んでいくメタリックなハードロックなどには不向きです。

また、ブースターとして利用すると、元々の中高域を強調するその特性のためか、質感をワイルドにしながらのゲインアップを図れます。こちらもまた魅力的な音であるのは言うまでもありません。

BD-2の弱点

基本的にあらゆるシチュエーションでそつの無い音を模索できる優れたペダルではありますが、強調された中高域に比べて低音が貧弱に感じられることが多々あり、そこがこのペダルの弱点とも言えます(後にBOSSから登場するBD-2Wでは、その弱点は解消されています)。

そのため、シングルコイルのギターに比べると、レスポール系などではやや音作りが難しいような印象を受けます。ジャキッとしたサウンドの質感がレスポールと合わないためですが、BD-2とレスポールで良い音を出している人も数多いので、シングルコイルほど簡単ではないものの、使い方とセッティング次第でうまく作ることも可能です。

BD-2のモディファイ品

BD-2はそのポテンシャルの高さゆえ、廉価品特有の安価なパーツを置き換えることでグレードアップを図っているモディファイ品が数多く存在します。ここではその一部を御紹介します。

Keeley Electronics BD-2 Mod “Phat Tube”

Keeley BD-2 Mod「Phat Tube」

ロバート・キーリーによるモディファイ品で有名なブランドKeeley Electronics。最近では店頭で見かけることも多くなりました。

オリジナルBD-2の最大の弱点である貧弱な低域をファットにする、というところに重点が置かれたモディファイが成されており、低域を制御するためのPhat SWというミニスイッチが増設されているところが最大のポイントです。各種コンデンサーの値を増やし、ダイオードも複数交換し、歪みの質も真空管らしく自然な物へと近づけています。その分、オリジナルとの差は大きく感じます。

Keeley Electronics BD-2

WEED Mod BD-2 / Double SW

WEED Mod BD-2

WEEDは、ギターブランド「dragonfly」をプロデュースするHARRY’S ENGINEERINGのエフェクター・モディファイ・ブランド。BD-2をモディファイした「BD-2 mod/Double SW」は、いくつかのパーツを高価なオーディオ用に変更することで、ノイズレスでスムースなサウンドに近づけたものとなっています。新たにミニスイッチが2つ増設されており、弱点の低域をボトムSWで制御可能。さらにプレゼンスSWで高域のブーストも可能と、音色の幅を広げています。
白とグリーンのシールが貼られ、ノブが白いものに交換されているのもルックス上でのポイントとなっています。

weed BD-2

JHS Modified Boss BD-2 Blu Drive

JHS Modified BD-2

最近ではよく知られるようになったアメリカ合衆国のエフェクターブランドJHS Pedalsは、元々BD-2の修理をしたところから始まったブランドでした。

JHS Modified Boss BD-2では全体的な音質のブラッシュアップが図られており、特に中低域は損なうことなくタイトになっている印象を受けます。原音の良さをそのまま生かしているので、変わりすぎるのが嫌だという向きにはぴったりなモディファイです。さらにミニスイッチを増設しており、これをオンにすることで、凶悪なファズサウンドが得られます。この時キャラクターも激変するので、ほとんど一台二役的な扱いになっている、面白いモディファイです。

JHS Modified Boss BD-2 Blu Drive

Analog.Man RE-J BD-2/Super

Analog Man RE-J BD-2

モディファイで有名なアメリカのブランドAnalogManと日本の技術者”RE-J”とのコラボレーションから生まれた、新しいモディファイBD-2です。

高域の立ちすぎた部分を抑え、低音はタイトに。高域はややまろやかにしながらも、しっかり伸びが残っています。上記、JHSのものと同じく、音色の方向性はオリジナルから変えすぎることなく、元の良さを生かしたまま音色の修正を図っています。

Ovaltone BOSS BD-2 Modify

プレミア価格のつく高品質な歪みを多数リリースする人気の国産ブランドOvaltoneも、BD-2のモディファイを出していました。

スイッチの増設などはありませんが、オペアンプが使われた部分は全てディスクリート回路に置き換わっています。オリジナルに比べると、太く粘りのある音色が特徴で、低域をプッシュするというよりは中域にぐっとコシが出てきています。名称の通りのブルース系ソロなどにはより使える音が得られそうな印象です。現状、残念なことにこのモディファイを休止しているようで、オークションなどで探すしかない状況のようです。

Dr.Lake Hyper BD-2 Mod.

Dr Lake BD-2

Dr.Lakeは国産のハンドメイドエフェクターブランド。モディファイを多数リリースしている人気ブランドです。

弱点でもある低域をしっかりとさせているのはもちろんですが、高域の出方により自然なアンプらしさを感じるモディファイとなっています。通常のスーパー・クランチ・モードと、より力強いパワー・クランチ・モードをミニスイッチで切り替え可能。これによってさらに幅広い音を得ることができます。

Freedom BOSS BD-2 F.G.R Mod.

Freedom BOSS BD-2

カスタムギターなどで有名な国産ブランドFreedom Custom Guitar Reserch(Freedom C.G.R.)もBD-2のモディファイ品を出しています。

原音を忠実に、音質の底上げを図っているようなモデルです。この中でもオリジナルに忠実なものの一つですが、Tone、Gainともに効きが良くなっており、オリジナル品以上にファズっぽい音も狙えるようになっています。

Soul Power Instruments BD-2 el Diablo

Soul Power BD-2

Soul Powerは静岡にてオリジナルエフェクターの制作及びモディファイを行っているブランドです。ここのBD-2のカスタムは凄まじく、もはや別物と言えるレベルに達しています。

内部のパーツはオーディオ用に変更、2つ追加されたミニスイッチでは低域、高域のブーストが出来ます。そして、通常オンオフのスイッチに加え、別途ブーストスイッチを増設し、演奏中任意にブースト可能。ブーストのレベルは側面に増設された三つのコントロールのうちの一つを使って設定し、残りの二つは、この機種の最も特徴的な機能である、クリーントーンのブレンドに使用します。かなり高価ではあるものの、数多いハンドメイド系ブティックペダルも真っ青の汎用性を手に入れた、究極のモディファイとなっています。

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その他、自作で改造を施している人も数多く見られます。「bd-2 改造」などで検索すると、数多くの個人ブログがヒットしますが、これもまた、BD-2が愛されている証拠でしょう。

本家のモディファイ:BOSS BD-2W

BD-2W

上に列挙したようなエフェクターのモディファイが流行しだしてから、そのやり玉として真っ先に使われたのが当時の現行機種Ibanez TS-9であり、次にBOSSのコンパクトエフェクター群でした。2014年、それを受けて、公式のBOSSがついに自社製品のモディファイ品を扱うまでに至ります。そのシリーズが「技-WAZA CRAFT-」と名付けられた一連のシリーズです。歪みペダルではSD-1と並んでBD-2がその新シリーズの軸として登場しました。

回路構成はOvaltoneのモディファイ品と同じく、フルディスクリートを実現。しかし、単純に回路を変えて別物にしてあるわけではなく、従来のBD-2のサウンドに加えて、カスタム・モードというキャラクターの異なるサウンドを別個に選べる仕様になっています。さらに、そのサウンドキャラクターを切り替えるために、回路構成もそれぞれに最適なものを二つ搭載するというこだわりぶり。

BD-2 / BD-2W:サウンド比較


BOSS BD-2 vs BD-2W WAZA Craft 【Supernice!エフェクター】
同じ条件(ギターやアンプのセッティング)、同じツマミの位置で2機種を比較している

BD-2Wを”カスタム・モード”にすると、明らかに粘りと中域のコシが増しているのがはっきりわかります。ピッキングの強弱やギターのボリュームに対する反応などは従来の良さをそのまま受け継ぎ、その上で、恐らくBOSSも弱点と気がついていた、中低域を落とさないような工夫が重ねられているのでしょう。その落ちない中低域がワイルドさの強調にもつながっており、しっかりとした図太い音を実現しています。BOSSらしい優等生的ではない歪みペダルへ、良い意味で変貌していると言えるでしょう。

各種モディファイ品が軒並み2万円を越える中、この製品が公式からこの価格で登場した意味は非常に大きいと言えます。モディファイやコンパクトエフェクターの世界がまた面白くなる起爆剤ともなっていくのではないでしょうか。

BOSS BD-2W


発売以降、大幅なバージョンアップをされていないところから見ても、BOSS BD-2が開発時点ですでに非常に高い完成度を持っていたことは疑いようもありません。これほどハンドメイド系エフェクターが百花繚乱する中で、なお埋もれることなく、今でも多数の人々に愛されているところに、このペダルの魅力の底知れない深さが垣間見られます。90年代以降に登場したエフェクターでここまで定番化しているものは他になく、まさに類を見ないモンスターマシンと言えるでしょう。