自然な響きを得る従来のリバーブと違い、非現実的な残響を得ることを目的とした製品群。これらは2010年代より多数登場し、「アンビエント系」などと称されることもあります。先鞭をつけたのは、strymonの”blueSky”で、ウェット音にオクターブ上のサウンドを重ねる「シマーリバーブ」はその鮮烈なサウンドで世界を席巻しました。時に幻想的、宇宙的などとも言われるサウンドは、シンセのサウンドに通じるところもあり、ギターエフェクターの新たな可能性を提示しています。今回はこのような音世界を作り出せるペダルエフェクターを多数紹介します。
空間系エフェクトの王者として君臨するstrymonでは、2022年7月に既存製品のアップデートが一斉に行われ、代表機種”blueSky”もblueSky V2としてブラッシュアップされました。残響にオクターブ上のピッチシフトを掛けて幻想的な雰囲気を作り出す「シマーリバーブ」を世に初めて送り出したblueSkyは、リバーブとしての圧倒的なクオリティで、トッププロまでも魅了した存在。今回のバージョンアップではその品質はそのままにファームウェアアップデートやMIDI接続に対応したUSB-Cポート、TRS MIDIジャックの新設、プレミアムJFET入力の装備、さらにプロセッサーも新たなものが採用され、消費電力を抑えつつより高いパフォーマンスが得られるように改良が施されています。
4スイッチのマルチディレイとして伝説的な人気を誇ったLine6のDL4。登場以後20年以上を経て、ついに後継機種が登場しました。オリジナルのDL4のサウンドにHelixから継承された15種類を新たに搭載、GlitchやCosmosなど、非常に個性的なディレイタイプをもカバーしました。240秒以上の録音を可能とするルーパー、リバーブも同時使用可能となり、MIDIや外部ペダルなど多くの端子を備え、高い拡張性も確保しています。オリジナルDL4に比べて若干小ぶりに整えられたボディに、一般的な9V電源を使用可能とすることで、使いやすさをぐっと高めています。
その名の通り、宇宙的なサウンドを構築できるリバーブペダル。音を重ねて演奏していくインフィニットモード、リバーブ音を静止させて、その状態で演奏するフリーズモードの二つのモードを備え、大きく広がりのある空間から、シンセのような尖ったサウンドや、パッド音的な永久に続くサウンドまで自在に作り出すことも可能。つまみが多い割にサウンドの変化は掴みやすく、音色の浮遊感や分離感などを次々に変えていける感覚は当モデルならではのものです。本体には5つのプリセットを保存でき、USBケーブルによってプリセットの管理やソフトウェアのアップデートができます。
かつてラインナップされていたMooerのシマーリバーブ専用機ShimVerbは、わずか3つのモードに、強力とは言えないDSPを備えた小型ペダルでした。このShimVerb Proはその改良版という立ち位置ながら、強力なDSPチップを備え、モードは5タイプに増加、ツインペダル仕様でプリセット切替にも対応するなど、数々の新機能に彩られた完全な新製品と呼べる物になっています。Shimmerスイッチを別に備えることで、通常のリバーブにプラスアルファとして効果を掛けることができるようになり、リバーブ音に度数を変えてハーモニーを付けるためのコントロールも増設。多彩なサウンドを構築できます。
Mooerの小型サイズのリバーブペダル3機種。大きく分けて非日常的空間を作る専用機としてのA7、一般的なサウンドを得るR7の二機種に分かれます。A7はPlate、Hallを除けばWarpやCrush、Dreamといった、名前からして普通のリバーブとは違うクセの強いものをいくつも搭載しており、幻想的なサウンドからエグいものまでを多用に表現可能。残響を固定するフリーズモードも搭載します。R7は高品質なリバーブで、一般的なリバーブではありつつもCaveモードなどを用いれば宇宙的なサウンドも作り出すことができます。R7 X2はこの両方の機種を一台に収めたもので、多岐に渡るサウンドを一台でこなすことができます。
MOOER A7
Mooer R7
Mooer R7 X2 REVERB
ディレイとリバーブを足した製品としてDeverbという名が付けられたモデル。一般的な複合エフェクターではなく、ディレイ音にリバーブを掛けられるという、他にはないサウンド構築ができるところが強みで、Deverbつまみによりこのリバーブの掛かり具合を自由にコントロール可能です。原音を邪魔させないためにディレイを奥まった位置に配置するといった王道の使い方から、水の中にいるような幻想的なサウンドまでを幅広く作り出すことができます。
https://www.youtube.com/watch?v=5sytht5j7fo
方向性は通常のルームリバーブでありながら、非常に緻密にチューンされたシマー効果を付与することができるモデル。スタンフォード大学のシマー効果に関する論文からインスピレーションを得た開発チームが、最も美しいシマー効果を研究した末に当モデルは作り出されました。Shimmerコントロールによりシマー効果の強弱を設定し、High Cutコントロールにより、その質感を制御します。派手さはないペダルですが、美しく上質なシマーリバーブを得ることのできる王道のリバーブです。
4種類のリバーブアルゴリズムを搭載したアンビエント系リバーブ。一見ノーマルなHall、Plateモードでさえ、一般的なもの以上にかなり深いところまで響く独特のリバーブ効果をフィーチュアしており、Lo-Fiでは沈み込んでいくようなサウンド、シマーリバーブであるSonarではオクターブの上下両方に音を加えることができます。サウンドの要はXコントロールで、モードによってプリディレイや周波数帯域、オクターブ上の音量など役割を変えていき、これを回すだけで非常に面白いサウンドを作り出せます。残響音を鳴らし続けるSustainスイッチも装備。小型のペダルながら大変パワフルなリバーブマシンです。
Walrus Audioを代表するアンビエント系リバーブSlo。オクターブ下の音を内包するDark、スウェル効果があり柔らかく残響が追ってくるRise、残響の長さをスイッチでコントロールできるDreamの3種のリバーブタイプを搭載。さらにSine、Warp、Sinkの3種のモジュレーションタイプも選ぶことができ、Xコントロールの使い勝手も相まって、複雑な空間から淡いパッド音サウンドまで非常に幅広いサウンドを直感的に作ることができます。冷たく宇宙的というよりは暖かみがある幻想的なサウンドを得意としており、通常のリバーブとしても優秀です。姉妹製品であるSlotvaはSloにプリセット登録機能を付加したもの。SLARPは同社の高品質ディレイARP-87を一台にまとめたものです。
Walrus Audio Slo
Walrus Audio Slotva
Walrus Audio SLARP
Walrus Audioにラインナップされる多数のリバーブの中でも最も高級なものがこのモデル。非常に高品質なリバーブアルゴリズムを6種類搭載。王道とも言えるSpring、Hall、Plateの3種の他、濃密な残響を得るBFR、壊れたテープデッキのようなグリッチエフェクトを得るRFRCT(Refrect)、薄くシマー効果を付与し、空間を包み込むようなサウンドを作るAirの三種を搭載。リバーブには珍しい、遅らせて発音するためのSwellコントロール搭載や、ウェット音を静止して鳴らし続けるシリーズ共通のsustainスイッチも健在。ギタリストに強力なインスピレーションを与えてくれる強力なリバーブマシンです。
Walrus Audio R1 High Fidelity Stereo Reverb
リバースサウンドをベースとした複合的な残響を作り出し、包み込むような音空間を創出するエフェクター。種別はリバーブの一種とも捉えられますが、カテゴライズの難しい機種であり、5つ搭載されたモードも、ディレイとリバーブを複雑に絡めた独特なアルゴリズムが揃っています。いずれのモードもリバースディレイを軸とし、それをシマーリバーブやリバースリバーブに通すことで類を見ない広がりを得られるようになっており、8つあるコントロールで多彩な調整も行えます。間違いなく唯一無二のアンビエント生成マシンと言って良いでしょう。
Walrus Audio Lore Reverse Soundscape Generator
Pad Reverbとの名の通り、パッド音的な持続音を得ることのできるリバーブマシン。リバーブ・コントロールを一定以上にすると残響が持続し、まさにパッド音的なサウンドを鳴らすことができます。3つあるモードはそれぞれシマー的な使い方ができるPitch、リバーブにディレイを掛けて迫り来るサウンドを作るDelay、リバーブ音にビットクラッシャーのかかるCrushの3種となっています。幻想的というより宇宙的、金属的なサウンドが得意なモデルですが、4つあるコントロールも相まって、多彩なパッド音をギターから作れるのは大変に魅力です。
Old Blood Noise Endeavors Dark Star Pad Reverb
ディレイとリバーブを組み合わせて複雑な音空間を作り出せるペダル。設計思想は前述したWalrus Audio Loreと似ていますが、こちらは逆再生に留まらずディレイのスピード調整やモジュレーションの調整などが行え、より幅広い自由な音作りが可能です。リバース再生についてはフットスイッチを使ったモーメンタリー操作もでき、一瞬のアクセントを出すのにも適しています。空間的な表現のみならず、ディレイを2倍速にしてのパーカッシブなプレイなどはまるでシンセのような発音で、ギターの表現力を大きく広げてくれる独自性の高いペダルです。
Old Blood Noise Endeavors MINIM
デジタルの頭脳をアナログで操る、といったスローガンを掲げる気鋭のブランドChase Bliss Audioの空間系モデル3種。アナログディレイとピッチシフターを合わせることで、通常のアナログディレイからシーケンサーのようなサウンドまでをカバーするThermae。DarkとWorldの2種のリバーブをミックスすることにより美しい残響から、グリッチやシマーリバーブまでを縦横無尽に作り出すDark World。音を断片化して再構成することで音色を作る”グラニュラー”とマイクロルーパー、ディレイを併せ持ち、唯一無二の個性的なサウンドをつくるM O O D。いずれも前衛的なモデルですが、特にM O O Dの独自性は圧巻の一言。どのモデルもアナログの出音に拘ったサウンドは非常に高品質で、限界まで詰め込んだ充実のコントロールで非常に幅広いサウンドデザインを可能としています。類を見ない新しいサウンドを作りたいギタリストに一度試して欲しい製品群です。
Chase Bliss Audio MOOD
Chase Bliss Audio Thermae
Chase Bliss Audio Dark World
シンセサイザーのパッド音的なサウンドを得るもの、音空間の創出を得意とするものなど、個性の強い製品が並びます。選ぶ際には自分の出したいサウンドに適合するかどうかを十分に吟味すると良いでしょう。どれも独自性が高いため、ハマると自分の演奏の一部としてなくてはならないほどの存在になり得るに違いありません。
スタジオグレードのエフェクトをコンパクトサイズで:スタジオ系エフェクター特集
エフェクター用の電源アダプターってどれを選ぶべき?良い電源ってある?
ディレイ?リバーブ?幻想的な空間演出が可能なペダルエフェクター
エフェクターを選ぶ重要な要素は「どれだけ尖ってるか」宮地楽器神田店【訪問インタビュー】
歪み系マルチ?マルチエフェクターではない歪みに特化したペダル特集