「ギターの入ったポップスが少なくなっている」、「ギターソロを飛ばす」など、2022年はまさにギター不遇ともいえる噂も多く飛び交った1年でした。しかし国内でのギター出荷量はここ数年徐々に伸び続けているほか(https://smbiz.asahi.com/article/14438951)、2020年にはFenderが過去最高の売り上げを記録する(https://amass.jp/138976/)など、国内外問わずギターという楽器への注目度は高まっており、エフェクター業界においてもそれはひしひしと感じられます。2022年もさまざまなエフェクターが各社からリリースされ、ギターの可能性がさらに飛躍した1年だったと言えるでしょう。本項では2022年に発売されたエフェクターの中から注目すべきものをピックアップし、それぞれ簡単にご紹介します。
塗装を省略し、筐体の規格を統一することで高いコスト・パフォーマンスを実現したFenderのペダル・シリーズです。基本的には3〜4ノブのシンプルなコントロールとなっているため、エフェクターを初めて触る初心者のプレイヤーにも音作りがしやすいのが特徴です。さらに細やかなサウンドメイクを可能とするトグルスイッチや内部トリムポットを装備している機種も多く、中級者〜上級者にもおすすめできるシリーズです。また、昨今の円高の煽りを受けても実売価格は1万円前後とビギナーにも手を出しやすい価格帯を維持しているほか、ペダルボードに搭載することを意識したトップ・マウント・ジャックやコンパクトな筐体など、低価格ながらも現代のギタリストのニーズもしっかりと反映されています。
Fender Hammertone Overdrive
Fender Hammertone Distortion
Fender Hammertone Metal
Fender Hammertone Fuzz
Fender Hammertone Chorus
Fender Hammertone Flanger
Fender Hammertone Delay
Fender Hammertone Space Delay
Fender Hammertone Reverb
2008年のブランド発足以来、業界のゲームチェンジャー的ポジションを保ち続けているstrymon社ですが、2022年7月に「blueSky」、「FLINT」、「DIG」、「El Capistan」、「Lex」、「DECO」などの定番機種計6機種のリニューアル・モデルをリリースし大きな話題となりました。MIDIコントロールへの対応やDSPのアップデート、入力部へのJFET回路の追加やステレオ入力の搭載など、基礎的な部分が大幅に強化されたほか、機種ごとのアップデートも行われており、コントロール類の刷新やblueSkyへのEXP端子の搭載など、サウンドのキャラクターはそのままにさらに幅広い用途が期待できるモデルへと生まれ変わっています。
strymon blueSky V2
strymon DIG V2
strymon El Capistan V2
strymon DECO V2
strymon FLINT V2
strymon Lex V2
KORGから新たに登場したチューナー4機種です。新開発の高性能バッファー「ULTRA BUFFER」を搭載しており、ペダルを多く並べたボードや長いケーブルを使用していても、楽器のピュアな音色を保つことができます。45mm × 93mmのミニサイズからラック・タイプのチューナーまでラインナップしているため、プレイヤーのシチュエーションに適した一台を見つけることができるはずです。どの機種も輝度の高いディスプレイと高い精度という点で共通していますが、特にユニークな仕様を持つのがペダル・タイプの「Pitchblack XS」。ディスプレイのあるフロント部全体がフットスイッチとなっているため、省スペースながらも高い視認性を実現しています。
KORG Pitchblack X
KORG Pitchblack XS
KORG Pitchblack X mini
ギター・ペダル業界に参入し、瞬く間に絶大な支持を得たUniversal Audio。2022年5月についにアンプ・エミュレーション3機種をリリースし、他のUAFXシリーズ製品と同じく高い評価を受けました。今回ラインナップに加わったのはFenderやVOXのアンプをそれぞれモデリングした「Woodrow/55 Amplifier」、「Dream/65 Reverb-Amp」、「Ruby/63 Top Boost」の3機種で、KemperやFractalの登場により頭打ちかと思われていたアンプ・シミュレーションの限界を打ち破る高いクオリティーの音色で業界を沸かせました。多彩なコントロールや他の機器との連携など、機能面においてもたいへん優れたシリーズです。
Universal Audio UAFX Dream
Universal Audio UAFX Ruby
Universal Audio UAFX Woodrow
RE-202
Roland社のテープ・エコーの名機「RE-201 Space Echo」を現代の技術で蘇らせた2機種です。RE-202はミドル・サイズ、RE-2はいわゆる「BOSSコン」サイズの筐体にそれぞれ納められており、ヘッド・アンプ並に巨大なオリジナル機と比較して可搬性に優れているほか、煩雑なメンテナンスも必要ありません。同じくRE-201のサウンドをペダルで再現した製品には「RE-20」がありますが、今回登場した2機種はオリジナルにより近いサウンドになったのに加え、新たな機能も多数追加されています。特にRE-202は新たなリバーブ4種類の搭載などさらにプレイの可能性を広げるコントロールも搭載されており、オリジナル機以上のインスピレーションが期待できる一台です。
BOSS RE-202 Space Echo
BOSS RE-2 Space Echo
老舗のBOSSから登場した、新たなマルチ・エフェクターです。フラッグシップ・モデルである「GT-1000」のAIRDアンプやエフェクトを継承した高品位なサウンドが特徴で、実機の真空管アンプのような生々しいサウンド、レスポンスを得ることができます。ギター/ベース用アンプは23種類、エフェクトは150種類以上とラインナップも申し分なく、接続順やパラメーターはタッチ式のディスプレイで簡単にエディット可能です。バンクの切り替えやチューナー用のスイッチも独立しているため操作しやすく、ライブでの踏み間違いも起きづらい仕様となっています。高いクオリティのサウンドと充実した機能に加え、高い可搬性や直感的なコントロールにも優れており、秀逸なバランス感覚を持つ一台です。
2000年の発売以来、今も根強い人気を誇るLine6の名機中の名機「DL4」のリニューアル・モデルです。専用のアダプターを必要とし、なおかつ大きく重い筐体はボードに組み込んで使用するには少し手間がかかりましたが、MkIIではパワー・サプライでの駆動に対応したほか、奥行きが一般的なペダル並になったためボードにも組み込みやすくなりました。もちろん新たなサウンドも多数追加されていますが、コントロール類は初代DL4と同じコントロールを採用しているのに加え、「Legacy」ボタンを押せば初代DL4と同じように操作することができるため、これまでのユーザーにも馴染みやすい仕様となっています。
野心的なプロダクトを続々リリースし、新たな音色を求めるプレイヤーたちから絶大な支持を受けているラトビアのGamechanger Audioから新たに登場したピッチシフター・ペダルです。ギターに取り付けるビグスビー・アームをそのままペダルにしたような奇抜なルックスが目を引きますが、性能も侮れません。独自のハイブリッド・アルゴリズムにより実機のビグスビーのようにスムーズなピッチシフトを可能としており、他のピッチシフト系ペダルのようにシンセ的なサウンドに変わってしまうこともなく、ナチュラルな楽器の響きが維持されます。シフト幅の調節や踏み込み方向の反転などのコントロールも充実しており、見た目の突飛さに反して非常に実戦的な一台です。
Gamechanger Audio BIGSBY PEDAL
「Mighty Plug」シリーズなど、ユーザーのニーズとお財布事情にフィットした製品を多数取り揃えるNUXから登場したペダル・タイプのアンプ・モデラーです。1.2msの超低システムレイテンシー、110dBワイドダイナミックレンジ、48kHz/32ビットサンプリングレート、32ビットプロセッサという高いスペックとNUX独自のモデリング技術「TSAC-HD」により、大手メーカーに引けを取らない高品位なサウンドを出力します。サードパーティIRのロードやPC/Mac上でのエディターによる編集、オーディオ・インターフェイスとしての機能など、近年のアンプ・モデラーに必要な機能はほとんど搭載されており、手頃な価格でありながらも頼もしい一台です。
Rolandの「RE-201 Space Echo」をモデルにしたテープエコー・ペダルです。同じく2022年に登場した本家(BOSS)のRE-2、RE-202と比較せざるを得ない本機ですが、小型のディスプレイの搭載など、本家とは一線を画する要素も持ち合わせています。フットスイッチによるタップ・テンポやプリアンプのドライブ、ワウ・フラッターのコントロール、PC上のエディターによる編集など、RE-202並の高い機能を装備しているにも関わらず、筐体はRE-202よりコンパクト。そして何より実売価格は2万円を切るというコスト・パフォーマンスの素晴らしさは他の追随を許しません。独自の立ち位置を確立している一台といえるでしょう。
英国に拠点を置くギター・アンプ・メーカーであるBlackstarのリリースするフロア・タイプの100Wアンプです。「Dept」シリーズを開発したチームが手がけており、サウンド、機能共に充実したものとなっています。アンプとスピーカーの相互作用を再現した電流帰還方式やBlackstar社が特許を取得しているレスポンス・コントロールを採用しており、フルサイズのアンプに近いリアルなサウンドが楽しめます。次世代DSPスピーカー・シミュレーター「Cab Rig」も搭載されており、USB/XLR出力においても素晴らしいトーンを出力するほか、ワッテージの調節やシミュレートするパワー・バルブの変更など、どんなシチュエーションでも活躍するマルチな機能も携えた一台です。
プロフェッショナルの使用も多いFree The Toneがリリースしたデジタル・ディレイ・ペダルです。地に足のついた、実戦的でプラクティカルな製品を多く取り揃えるイメージのあるFree The Toneですが、本機は遊び心と創造性に溢れたサウンドが特徴的です。宇宙的な音色を出力する「COSMIC」をはじめとするフィルターや出力ビット数の調整機能など、プレイヤーのインスピレーションを刺激する機能が多数搭載されている一方で、本機のために開発された新型の高性能DSPやステータスの確認がしやすい小型のディスプレイの搭載など、Free The Toneの本気を感じる「使える」一台にまとまっています。
スペインのアルバセーテ発の新興メーカー、Thermionが贈るドライブ・ペダル/プリ・アンプです。真空管アンプの修繕を目的に2012年に設立されたThermionは「アナログでありながらも、現代のデジタルの多様性に開かれた」もの作りをコンセプトとしており、Diezelの定番アンプ「VH-4」をモデルとした本機もそのコンセプト通り、使いやすさと音の良さが両立されています。プリ・アンプとして使用した場合にも生々しい音色が得られるThermion独自の「SE2テクノロジー」など、サウンド面でのクオリティの高さはもちろんですが、パッケージに再生可能素材を使用するなど、環境にも配慮した姿勢は近年のブランドらしいといえるでしょう。
メディアへの露出も多く、新商品をリリースするたび業界を沸かせるEarthQuaker Devicesですが、2022年もユニークな製品の数々でギターの可能性をさらに広げてくれました。本機はエンベロープ・フィルターですが、中央上部のトグル・スイッチでフィルターのモードを選択することができ、コンパクトなサイズとシンプルなコントロールに反して多種多様なサウンドを出力することができます。定番のファンキーなフィルターはもちろんのこと、フェイザーやリング・モジュレーターのようなエフェクトにも変身する、プレイヤーのインスピレーションを刺激する、EarthQuaker Devicesらしい一台です。
EarthQuaker Devices Special Cranker
「Contraband」や「Jupiter」など、単なるヴィンテージのファズのリイシューではないオリジナリティ溢れるファズの数々をリリースしているWalrus Audio。Eons Five-State Fuzzは、ロータリー・スイッチにより歪みのキャラクターを決めるクリッピングの方式を5種類から選択できるのが魅力です。電圧も3Vから18Vの間で調節可能で、1台であらゆるファズ・サウンドをカバーすると言っても過言ではないほどバリエーション豊かなサウンドを作ることができます。また、同シリーズではオーバー・ドライブとディストーションもリリースされているため、そちらも要チェックです。
Walrus Audio Eons Five-State Fuzz
Walrus Audioの人気機種であるリバーブ・ペダル「Slö」のアップグレード・モデルです。新たにプリセット機能が加わり、お気に入りのセッティングを3つまで保存できるようになりました。機能は拡張されましたがサイズは変わらず、Slöを所有しているユーザーもリプレイスしやすいのは魅力です。3種類のリバーブとモジュレーションが搭載されており、それらを組み合わせて幻想的なサウンドを作りだすことができます。リバーブは現実の空間をシミュレートしたものは入っておらず、夢の中にいるようなドリーミーなサウンドを生み出すにはもってこいの一台といえるでしょう。
トーンの素晴らしさと利便性、そして何よりコスト・パフォーマンスに優れた製品でアマチュア、プロ問わず幅広く支持されるTC ElectronicのIRローダーです。ボードの中でも場所を取らないコンパクトな筐体は既存のリグを大きく組み替える必要もなく、IRローダーを試してみたい、というギタリストにはうってつけのサイズです。筐体が小さくとも視認性が高いLCDディスプレイを搭載しているため、暗いステージ上でも見やすく機能的です。スロットは99個と十分な数を備えており、Celestion公式のIRやTC Electronicのエンジニアが開発したIR、ピエゾのサウンドを補正するアコースティック・ギター向けのIRなど25種類がプリインストールされており、即戦力の一台です。
TC Electronic IMPULSE IR LOADER
ハーモナイザーの開発により80年代サウンドに大きく寄与し、近年ではペダル・タイプのエフェクトやプラグインを活発にリリースするEventideからリリースされた次世代マルチ・エフェクターです。フラッグシップ機である「H9000 Harmonizer」から継承したARMベース・アーキテクチャの採用により、パワフルな処理能力が頼もしい一台です。プロの使用者も多い同社製のマルチ・エフェクター・ペダル「H9」のエフェクト52種類の搭載に加え、新たに開発されたアルゴリズムも多数搭載されているほか、これらのアルゴリズムを組み合わせて自分だけのオリジナル・エフェクトを作成することも可能です。
ボードでシステムを全て完結させたい、というユーザーのニーズを受けてのことなのか、2022年は各社からフロア・タイプのアンプのリリースが目立ちました。また、機構や出力されるサウンドが複雑なエフェクターはバイパス音やON時の音の解像度に難があるものも少なくありませんでしたが、ここ数年でアン直と遜色のないクオリティにまで達した印象があります。「安かろう悪かろう」のイメージが強かった中華系のブランドの製品も有名ブランドの品質に並び、コスト・パフォーマンスに優れた選択肢として市場で強い存在感を放つようになりました。ユニークで実戦的な製品が多くリリースされた2022年。2023年も各社の動向から目が離せません。
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