エフェクターを選ぶ重要な要素は「どれだけ尖ってるか」宮地楽器神田店【訪問インタビュー】2015年10月7日

宮地楽器神田店インタビュー:エフェクター編

【宮地楽器神田店、訪問インタビュー:前編】では、エフェクター部門の切替さんに
・宮地楽器神田店の特色
・DTM系レッスン
・ディーラーとしての取り組み
についてお話を聞いてきましたが、後編では切替さんが所属するエフェクター部門について。神田本店に並ぶエフェクター、エフェクターの仕入れについて、注目のエフェクターなど、お話をお聞きしました。

──切替さん、引き続きよろしくお願いいたします。

切替淳さん(以下、敬称略) よろしくお願いいたします。

──それにしてもエフェクターを担当しているのが切替さんということで、名前が素晴らしいですね、エフェクターを売るために生まれてきたような名前ですね(笑

切替淳 ありがとうございます(笑)。よく言われます、お客さんや同業者の方にも(笑)。でも我ながらこんな名字に生まれてよかったなと(笑)。エフェクター部門に来てよかったです。

ファズを中心とした尖ったラインナップ

──ではエフェクターについてお話を伺っていきたいと思います。宮地楽器神田店ではどんな種類のエフェクターが多いんですか?

神田店エフェクター売り場のショーケース1

神田店エフェクター売り場のショーケース2神田店エフェクター売り場のショーケース

切替淳 うちはファズが多いですね。
宮地楽器は御茶ノ水の楽器店です。坂を上がれば数多くの楽器店が立ち並び、一般的な機材は何でも揃っています。そこからちょっとはなれた場所にうちの店がありますので、うちではうちにしかないもの/面白いもの/良いものを揃えていく、僕がエフェクター部門にくる前からそういった土壌があるみたいです。そういったこともあって、エフェクターで尖ったものを拾っていこうとすると、ファズがやりやすかったです。
オーバードライブで良いペダルは何か?ってなると難しいんですよ。ドライブ・ペダルは捉え方が一番多様ですし、100人いたら100人それぞれ良いオーバードライブのサウンドは違うと思うんですよ。けれどファズの場合は回路で言っても近いものが多く、まだ選択肢が少ないので、100人いたら10人くらいは同じ種類のものをフェイバリットに挙げるイメージですね。なのでそこを狙いにいく。

──ファズは単価が高いですよね。

切替淳 そうですね、うちが扱っているファズも単価が高いものが多いのですが、他店でそういったところは少ないみたいで、差別化が図れましたね。なので僕がエフェクター部門に来て最初のうちは、なんでもかんでも高い順にファズを仕入れていました(笑)。今仕入れているファズもマニアック系というか、極まってる系のものが多いです。また、高くても売れるんですよ。良いもの/他にないものっていうのは売れるんです。そういったことは、良いものを求めにくるお客さんに教わりましたね。

──切替さんは個人的にもファズが好きで、その中でもビーバーBeeBaaファズがお気に入りと伺っていますが?

Roland Bee Baa AF-100 FuzzRoland Bee Baa AF-100 Fuzz

切替淳 はい、好きです。僕もバンドをやっていた時期があって、アルケミーレコードというレーベルのJOJO広重さんなど、ノイズとエキセントリックなことをやっている人達がいて、その界隈でよく使われていた殺人ファズに影響を受けて、その中でも有名だったBeeBaaファズは好きになりましたね。本物を弾く機会もあったんですがトレブルブースターが凄く良かった。そこからビンテージ系のエフェクターの世界にに入っていけました。
昔って楽器の数が少なかったから、どのジャンルでもエフェクターって基本的にほとんど同じものを使うじゃないですか?人気があるビンテージエフェクターっていうのは今でも再現されたりしています、今の製品でもルーツが同じなんですね。そういったこともあり、ビンテージ・エフェクターのサウンドを知っていたことで助かっているって感じですね。

Webサイトからの反響

──ネットで購入するのが主流になりつつありますね。宮地楽器さんはどうですか?

切替淳 エフェクターに関しては、もちろんネット経由もありますが、店頭で決めていただけるお客様も数多くいらしゃいます。「何かいいファズないですか?」と来られるのではなく、具体的な商品を指定して来店される方が多いですね。ネットに掲載してある○○の商品ありますか?など。僕が書いた文章などを参考に、自分で聞いて判断した音との間に意識の差はないかっていう最終確認だけをしに来られている感じですね。

──切替さんはエフェクターについて、ウェブに掲載する文章をライティングされているんですよね?綺麗な文章で丁寧に書かれていると感じました。

切替淳 ありがとうございます。「ネットに掲載してある文章を書いた店員さんは誰ですか?」って聞いていただけることもあります。単にディストリビューターの文言をそのまま貼付けるのではなく、自分で弾いてみた感想をそのまま書いているつもりで、そこもこだわりの一つで、他店とは違うモノを置く、違う掲載の仕方をするっていうのを意識して、わりと率直に書くようにしています。私はお店の売り子であって審査員ではないので、何がいいか何が悪いかでは見ないようにしています。何が得意か/どういう人におすすめかが好きな人に伝わるように、いかに文章でそのエフェクターの個性を表現するかというところにかなり頭を使っていますね。

エフェクターを仕入れる時の基準は?

──エフェクターの仕入れはどんなところに気をつけていますか?選択肢が多い中で、どうやって商品(エフェクター)を選んでいくのですか?

切替淳 まずは見た目。見た目はめっっっっっちゃくちゃ大事です(笑)。というか見た目で選んでいるといっても過言ではないです。たとえば海外の製品などを選ぶとき、商品を知るきっかけはだいたいWebサイトからなんですが、音なんてわからないんですよ。またエフェクターはギターほど個体差もないので買いやすいところがあります。だから見た目(笑

──エフェクター売り場を拝見しましたが、アニメ柄や和柄などプリントが目を惹くペダルが多いなという印象でした。

神田店エフェクター売り場のショーケース3

切替淳 国内のアンダーグラウンドな製品が入ってきています。最近は国内のエフェクターのビルダーさんはかなり思い切ったことをするようになってきていますね。エフェクターって見た目の縛りが大きいんです。ダイキャストのボディ、ハモンドの形、四角いフットスイッチ、ノブ、などルックス的なフォーマットはある程度決まっています。その中でいかに個性を出すか。フォーマットが決まりきった中で輝きを放てるエフェクターやメーカーは、きっとセンスがあるはずだと。例えば3Dプリンターが普及するようになれば、オリジナルのノブなんかも今よりももっと簡単に作れるんじゃないかなと思っているんですよ。
決まりきったフォーマットの中でどれだけ伸ばせるか。サッカーも手を使えないからオーバーヘッドという技が生まれたわけで、エフェクター界のオーバーヘッドシュートが生まれるのを待ってます。

──スペックは気にしますか?

切替淳 もちろんですが、そこに新しさが入っていれば最高ですね。新しいことができますというペダルは優先的に仕入れるようにはしています。機能が新しい、ジャンルとか狙った立ち位置が新しいっていうのも大事にしています。見た目と共にエフェクターを選ぶ重要な要素は「どれだけ尖ってるか」です。たとえばビンテージのスペックで言ったらただの銀ネジじゃなくてスケルトンスイッチだったら買う。新品でもNOSのゲルマニウムというだけではなびかない。もう一段階掘り下げて研ぎすまされたようなもの、自分が感じた「新しさ」や「尖っ」たものというは、お客さんも同じように感じるのではないかな、と可能性を信じて買いますね。
レアなトランジスタなら何でも売れる時代は過ぎたと思うんです。けど良いものは売れるので、本当に良いものを見極めて売るっていうことが必要になってセンスが問われるようになってきたと感じています。

スタジオ系機材のエフェクター化

──現在、注目しているエフェクターなどあれば教えて下さい

KATANASOUND 青線KATANASOUND 青線

切替淳 僕がいま注目しているのがスタジオ系の機材をエフェクター化したものですね。UREI 1176のコンプを模したKATANA Sound 青線はスタジオ系エフェクターのはしりだと思うんですが、そういったたぐいのペダルです。
今って、お客さんが音源を再生する環境がどんどん良くなってきていると思うんです。もちろんプロの現場がその時その瞬間に一番いい機材/いちばんいい環境と最高のスキルで音を録り続けてきているのは事実ですが、そうやって作られた音源を聞く側、特にギターをがしゃがしゃ弾いている人達はこれまでそんなにオーディオの品質を気にしなかったと思うんです。ところが最近は、リスニング環境をあまり気にしない人が買う普通のオーディオやパソコンのスピーカーでもそこそこ音が良いですし、ヘッドフォンのクオリティも昔と全然違う。聞く側の耳が肥えてきている、良い音悪い音の違いが出やすくなってきていると感じています。その中で良い音って何だ?ってなった時にスタジオ系の機材だといわゆる良い音が出やすい気がします。

ギタリストのお客さんからよく「CDと同じような音が出したいけど出来ない」という質問をいただくのですが、その理由はシンプルで、「アンプから出る音」と「アンプから出る音を録った音」は違うということですね。アンプを録った後の音で音作りをイメージしていく、そうなるとアウトボード系のペダルを一つ間に挟むことでいわゆるCDで聞くような音になると。そういった潜在的なニーズがあるので、聞き手側が作り手側に寄り添ってきているような環境があると感じています。
エフェクターメーカー側も元ネタがなくなってきているんだと思うんですけど、最後のフロンティアということでスタジオ系機材にどんどん手を出しているのではないかと感じています。聞き手側と作り手側の要求がクロスオーバーする、そこの交わったところに製品が出来ているのかなと思いますね。

Strymon BlueskyStrymon Bluesky

逆の流れもあって、コンパクトエフェクターはかつてレコーディングエンジニアから舐められていたところもあると思うんですけど、今一部のエンジニアさんはミックスの機材の一つとしてエフェクターを使ったりします。strymonのリバーブやディレイなどですね。ライン向け端子も搭載しているなど、作るほうもラックの機材的に使われるのを意識しているんじゃないかと思います。今の時代ラックでアナログのディレイやリバーブは出ない。その中でもハードで組まれているちゃんといい音となっていますね。
エンジニアのお客さんに話を聞くと、スタジオでは差し替えるけど、自宅作業ではレイテンシーもないし直感的でいいよねってことで使っているとのことです。

FMR AUDIO RNC 1773FMR AUDIO RNC 1773

また、エフェクターメーカーがアウトボードの世界に食い込んできていることもあります。例えばEventideがapiモジュールのエフェクターを出しましたし、FMR AudioのRNCコンプもエフェクターになったり。メーカーもユーザーも垣根がなくなってきています。

──ありがとうございました

切替淳 ありがとうございました


以上、宮地楽器エフェクター部門切替さんのインタビューでした。
宮地楽器が持つ風土、切替さんの感性によって、尖ったエフェクターが並んでいるということ。切替さんが選んだエフェクターのサウンドを求めて、ミュージシャンやエフェクターマニアなど、遠方から足を運ぶお客さんもいらっしゃるそうです。