TC Electronic Flashback Triple Delay
かつてはディレイと言えば一機種ごとにぞれぞれサウンドの個性があるモデルが普通でした。しかし、2010年あたりを境に、多くのディレイモデル内蔵、プリセット保存やMIDI対応、エクスプレッションペダルでのパラメータ可変など、様々な機能を持った製品が次々に登場。現在はディレイエフェクターの中でも主流の一つという地位を築くに至っています。このような多機能ディレイに迫ってみましょう。
多機能ディレイの最大の特徴は音色調整の範囲が非常に広いことで、特に複数のディレイモデルを内包する機種では、作れる音色の種類、調整の幅は圧倒的です。それに伴いセッティングの保存が可能なものがほとんどを占めるので、このような特徴をいかして、曲ごとのプリセット切替はもちろん、一曲中でもソロ時とバッキング時において別のディレイを掛けるなど、多様な運用ができるところは多機能ディレイの真骨頂と言って良いでしょう。また、そのようなディレイはルーパーを内包することも多く、パフォーマンスの内容によっては積極的に使っていくこともできます。
また、外部エクスプレッションペダルを利用してパラメータをリアルタイムに可変できるものでは、幻想的なアンビエントサウンドの構築やアナログディレイ特有の発振も外部ペダルからコントロール可能。MIDIに対応した機種では、スイッチを外部に接続し、足下で多様なコントロールを行うこともできます。ほぼ全てが高価格帯の製品に当たり、スタジオ機器のクオリティをフロアタイプに落とし込んだハイクオリティなものが多いため、ほとんどの機種でギターのみならずラインレベルの入力に対応しています。キーボードでの使用や、レコーディング環境やPAのアウトボードとしての使用なども想定できるでしょう。
アナログ系、デジタル系、テープエコー系のいずれかに寄ったものやアンビエント系サウンドに強いものなど、機種によって作れる音色の方向性がある程度決まってくるのは、通常のディレイエフェクターでも多機能ディレイでも同じ。ただし、多機能ディレイにはディレイモデルを複数搭載するモデルがあり、そのような機種ではある程度その垣根を取り払えます。このような機種はどのモデルを選んでも一定以上の品質を担保しているため、様々なサウンドを指向する場合には特に心強い存在となります。その分、単機能のディレイに比べ大型になりやすいのは覚悟しておきましょう。
Flashback Triple Delay:リアパネル
多機能ディレイはそのスタジオクオリティの品質や調整範囲の広さがゆえに、多くの機種においてギター以外で使われることが想定されています。たとえばキーボードやDAWのアウトボード代わりに使用するなどの運用方法が考えられ、このような使い方を視野に入れている場合、ステレオの入出力やラインレベルに対応した入力の有無が大きな要素となってきます。
多くのディレイモデルを切り替えられるようなモデルでは、ルーパーが付随するものが少なくありません。ルーパーをパフォーマンスのメインに据える場合はさすがに専門機を導入すべきと考えられるものの、部分的な使用に留まるのであればディレイ付属のルーパーは役立つ存在となり得ます。ライブパフォーマンスの他、練習や作曲などでも使用できるので、積極的に使っていきたい場合はルーパーの有無について調べておくと良いでしょう。
機種によってはリバーブを追加で掛けることができるものもあります。このようなモデルだと一台で二役がこなせるため、足下の機材を減らせるというところからも有用です。
プリセットやタップテンポ、その他様々なパラメータを外部MIDIスイッチでコントロールできる機種は少なくありません。ライブパフォーマンスにはより有効ですし、PCとの連携を視野に入れることもできます。MIDIクロック同期機能を持つモデルではDAW側とのテンポ情報を共有できるため、アウトボードとして使用する際には操作が格段にスムーズになります。
運用面において無視できない電源の形態。多機能ディレイは消費電力が大きく、専用のアダプターを持っていることもあります。通常の9VDCアダプターで賄う場合、消費電力量が多いため、大きな電力を確保出来るアダプターやパワーサプライを使用しましょう。ちなみに、専用のアダプター使用の場合、大きく重たいものだとコンパクトエフェクターひとつ分に匹敵するほどの存在感があるので、機材を軽くしたい場合はよく確認しておきましょう。
基本的にバッファード・バイパスが多いですが、機種によってはトゥルー・バイパスとの切替が可能なものも。トゥルー・バイパスは音質の変化が最小限に抑えられますが、オフにした際にディレイ音だけを残すことができないため、オンオフの際にブチッと切れたような音になるところがデメリットです。
ディレイモデル | 接続端子 | MIDI | プリセット保存 | リバースディレイ | ルーパー | 電源 |
30(+リバーブ有) | ステレオ入出力 MIDI in/out、EXP XLRマイク Micro SDスロット |
○ | 6 MIDI使用で128 |
○ | 240秒(micro SD使用で数時間) | 9VDC/500mA(付属) |
1999年に発売され、20年近くも多機能ディレイの代表格として君臨したLine6 DL4の後継機。初号機が大変なロングセラーであったため、満を持して発売された当機種は、筐体、アダプターの小型化、選べるバイパスタイプなど、新型として実用面においても大幅に強化されました。ギターにもっとも好ましいアナログライクなものを基本としたサウンドは旧型同様、大変に使いやすいもので、ディレイモデルは驚異の30種を搭載します。この中にはGlitchやHarmonyディレイなど、個性的なものも含まれていますが、単なる飛び道具とならない気品のある音色でまとめられているところはさすがといったところ。ルーパーは最長240秒。MIDI端子はもちろん、Mic in端子なども装備し、拡張性という点でも競合製品に比べ群を抜いています。
ディレイモデル | 接続端子 | MIDI | プリセット保存 | リバースディレイ | ルーパー | 電源 |
9 | ステレオ入出力、 MIDI |
○ (クロック同期あり) |
100 | ○ | 12秒 | 9VDC/500mA(付属) |
Line6 DL4には及ばないものの、こちらも2007年に発売されいまだ現役を続ける多機能ディレイの老舗。錚々たるミュージシャンの使用で知られ、スタジオクオリティのディレイマシンとしてもっとも信頼感のあるモデルです。デジタル、アナログ、テープエコー、リバースなど9種類のディレイと最大12秒のルーパーが搭載され、ディレイについてはそのうちの二つを個別に掛けることができるというユニークな仕様です。この機能こそがこのモデルの最大の特徴であり、単一のディレイとしてはもちろん、別々のディレイを掛け合わせた個性的なサウンドを構築することもできます。サウンドはアナログ的な太さを打ち出した傾向にあり、どのようなジャンルにも適したディレイが得られるでしょう。
ディレイモデル | 接続端子 | MIDI | プリセット保存 | リバースディレイ | ルーパー | 電源 |
1(デジタル) | ステレオ入出力、 EXP、HOLD |
○ | 99(うちファクトリープリセット9) | ○ | 20秒 | 12VDC/400mA(別売) |
国内で大変な人気を誇るFREE THE TONE社。当機種は2016年に製造終了となったFT-1Yに続く後継機として登場しました。タップテンポ入力後に自動でテンポを補正するBPMアナライザー、ディレイタイムを自動で少しずらしてノリを表現していくディレイタイム・オフセットの二つの機能はFT-1Yに搭載されたものを引き継ぎながら、さらなる音質の向上が図られ、インスト/ラインレベルの切替、プリセットの切替機能などが新搭載されました。また前機種にはなかったHOLD入力に外部スイッチを接続することで、ディレイ音の永続的な再生やルーパーとしても使用可能。フィルターやモジュレーションなどでデザインできるディレイサウンドはまさに最高峰とも言うべきもので、単一のディレイとして他を圧倒するクオリティを誇ります。反面、多彩な音が出るわけではなく、外観も数字とボタンが並ぶだけという、まさに堅実、硬派を地で行くモデルです。
FREE THE TONE FT-2Y FLIGHT TIME
空間系エフェクトの雄strymonはディレイのラインナップが非常に豊富。いずれのモデルも最高峰のクオリティを誇り、それぞれに個性を持ったサウンドは素晴らしいものばかりで、選択の際には大いに迷いたくなるラインナップです。strymonエフェクターに共通してみられる特徴として、ラインレベルの入力に対応、プリセットの複数保存、MIDIや外部エクスプレッションペダルの入力に対応、トゥルー・バイパスとバッファード・バイパスの切替が可能などがあります。下記に挙げる4機種中、TIMELINE、VOLANTEは大型モデル、DIG、El Capistanは小型モデルとなり、拡張性やフットスイッチの数に若干の差異があります。
ディレイモデル | 接続端子 | MIDI | プリセット保存 | リバースディレイ | ルーパー | 電源 |
13 | ステレオ入出力、 EXP |
○ (クロック同期あり) |
200 | ○ | 30秒 | 9VDC/300mA |
13のディレイモデルを持つstrymon唯一のマルチディレイ。200ものプリセットが保存でき、30秒のルーパーも内蔵する、多機能を地で行く使い勝手の良いモデルになっています。搭載されたモデルはテープエコー、アナログ、デジタルの基本3種を皮切りに、Reverse、Swell、ディレイ音をピッチシフトするIceや、ディレイ音にトレモロを掛けるTremなど個性的なものも含まれており、独自のサウンドデザインを模索することもできるでしょう。大型モデルですが、できることが多く汎用性が高いため、ディレイを多用するギタリストであれば必ず満足できる製品です。
ディレイモデル | 接続端子 | MIDI | プリセット保存 | リバースディレイ | ルーパー | 電源 |
3(全てアナログ) | ステレオ入出力、 EXP |
○ (クロック同期あり) |
8 / MIDI使用で300 | ○ | 64秒 | 9VDC/300mA |
マグネティック・ドラムエコー、テープエコー、スタジオエコーが創出可能なマルチディレイ。マルチヘッドの一つずつを中心の8つのボタンで制御していくという、他にはない操作性が面白く、テープのサチュレーションやヘッドの距離のズレまでが調整可能というマニアックさを持つ一品です。それゆえに作れるサウンドは王道のエコーサウンドから実験的なものまで多岐に渡り、これでしか得られないサウンドも存在するため、ひとたび音にハマれば強力な武器となってくれるでしょう。
ディレイモデル | 接続端子 | MIDI | プリセット保存 | リバースディレイ | ルーパー | 電源 |
3(全てデジタル) | ステレオ入出力、 EXP/MIDI |
○ (クロック同期あり) |
MIDI使用で300 | × | × | 9VDC/300mA |
デジタル黎明期の80年代のものを中心に、現代のハイレゾディレイまでをモードで切り替えて使用できるデジタルディレイ専門機。原音が劣化せず個性が出にくいとされるデジタルディレイの中でも、時代ごとのサウンドをシミュレートすることでその個性を演出。2つの違うディレイを同時に使うことができ、配列も直列、並列など複数選べるため、非常に複雑なディレイを得ることも可能です。その他、モジュレーション、ディレイ音が鳴り続けるサーキュラーリピートも足下で制御可能と、デジタルディレイ専用機の真骨頂と言うべき多機能を誇ります。
ディレイモデル | 接続端子 | MIDI | プリセット保存 | リバースディレイ | ルーパー | 電源 |
3+スプリングリバーブ | ステレオ入出力、 EXP/MIDI |
○ (クロック同期あり) |
200 | ○ | 20秒 | 9VDC/300mA |
デジタルのDIGに対して、ヴィンテージテープエコーの世界を突き詰めたのがこのEl Capistan。4つのテープヘッドのうち、動作するヘッドを選ぶことで違ったサウンドを得るという、他機種では見られないディレイの作り方ができ、選ぶヘッドによって3つのモードに分かれています。実際のテープマシンを可能な限り再現し、テープの摩耗や再生時のふらつきなどもパラメータで調整可能。多くのテープエコー実機と同じくスプリングリバーブを内蔵し、ルーパーも使えるため、テープエコーのシミュレーターという専門性の高いエフェクターながら、幅広い用途に使用できます。
ディレイモデル | 接続端子 | MIDI | プリセット保存 | リバースディレイ | ルーパー | 電源 |
16 | ステレオ入出力、 MIDI、EXP |
○ (クロック同期あり) |
300 | ○ | × | 9VDC(付属) |
ソフトウェア版のAmplitubeとシームレスな統合を果たした新世代のディレイマシン。Amplitubeでセッティングしたディレイをそのまま当機の中に保存し、通常のペダルエフェクターとして使用できます。サウンドのクオリティはその堅牢なボディからも想像できるように圧倒的な高さを誇り、ディレイモデルはマルチディレイの中でもトップクラスの16種類。スタンダードなものから、パターンディレイ、リバース&ピンポン、シマーを含むArticディレイなど、実験的な物までを網羅しています。PCとの連携が前提のためか、MIDIで複数のパラメータを一括で制御したり、プリセットの管理ができるなどの点もポイントでしょう。
IK Multimedia AmpliTube X-TIME
ディレイモデル | 接続端子 | MIDI | プリセット保存 | リバースディレイ | ルーパー | 電源 |
12 | ステレオ入出力、 MIDI、EXP |
○ (クロック同期あり) |
300 | ○ | 120秒(ディレイと併用可) | 9VDC |
BOSSが誇る多機能ディレイの決定版。王道のものからShimmer、SFXなどの実験的なものを含む12種のディレイモデルを内蔵しています。MIDI機能が充実しており、プリセット選択やパラメータ変更など全てに対応。バッファード、トゥルー・バイパスの選択もでき、高機能ディレイに求められる機能が全て詰まった一品です。当機種ならではの機能として、フットスイッチの役割を変えられるというものがあり、TAPを始めとし、フィードバックを鳴らし続けるHOLD、複数のパラメータを一挙に変化させていくTWIST、ディレイタイムを半分にするROLL1/2など、多くの役割から選んで割り当てることが可能。マルチエフェクター譲りとも言えるこの群を抜いた操作の柔軟性は、ディレイ一台で色々なことがしたいプレイヤーには貴重な存在でしょう。
ディレイモデル | 接続端子 | MIDI | プリセット保存 | リバースディレイ | ルーパー | 電源 |
12(+Toneprint 4) | ステレオ入出力、 MIDI、EXP |
○ (クロック同期あり) |
3(各スイッチに一つ) | ○ | × | 9VDC/300mA |
TC Electronic社の看板製品Flashbackディレイシリーズの中でも最高峰となる機種。同サイズのFlashback X4が大型ディレイの王道的製品としてラインナップされる傍ら、こちらは3種類の異なるディレイを同時に掛けることができるという驚異の機能を持ちます。2種類までは他の機種でも見かけますが、3種類の一度掛けは他に見ることはなく、当モデルの象徴的な機能と言えるでしょう。ディレイモデルは12種を内蔵し、なかにはSpaceという空間演出系のディレイもありますが、基本的にスタンダードなものが多く、そのセッティングの幅はやはり複数のディレイを一気に掛けた時にこそ味わえるもの。ただし、Toneprintというオンラインライブラリから別のモデルをダウンロードし収められるスロットが4つ存在し、ディレイモデルもある程度幅を広げることができるようになっています。同社の目玉機能Toneprintはもちろん、バッファード、トゥルー・バイパスの切替、MIDIとの強力な連携、ラインレベルに対応する大きなヘッドルーム…多機能ディレイに要求されるほぼ全ての機能を持っていますが、ルーパーが非搭載な点は玉に瑕です。
TC Electronic Flashback Triple Delay
多くの機種が登場している多機能ディレイ。いずれも高級機ばかりで品質は甲乙付けがたく、多くのギタリストは使える機能、大きさ、運用面から選ぶことになるでしょう。特にディレイモデル、ルーパーの有無などは後からごまかせない部分です。選ぶ際には自分の音楽に何が必要か、改めてよく吟味してみましょう。
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