ディレイ・エフェクトはギターの音作りを司る上で欠かせない要素の一つです。現在ではBOSSのDDシリーズに代表されるようなデジタル・ディレイ、MXRのCarbon Copyのようなアナログ・ディレイの2種が主に使われていますが、それらの遙か前から存在した、いわばディレイ・サウンドの元祖とも言えるものが「テープエコー」です。
1958年に発売されたEchorec、その後1959年に発売され大ヒットしたEchoplexは、いずれも60〜70年代に、様々なロックミュージシャン、ギタリスト達に使用され、いまや伝説的な存在になっています。その後、遅れること10年、1974年RolandがSpace Echo RE-201を発表。現在でも使われるこのモデルは、国産テープエコーとして大人気を博すに至りました。しかし、様々な面で制約の多いテープエコーは徐々に廃れ、その後、アナログ・ディレイに取って代わられることとなります。
Roland RE-201
テープエコーは非常に原始的な機構を持つエフェクトで、カセットテープの内部にも使われている磁気テープ、あるいは金属テープをループ走行させて、随時録音と再生を行い、遅れた音を得るという仕組みです。その構造は以下のようになっています。
テープエコーの仕組み
テープに合わせてヘッドが複数ついており、それぞれ消去(白)、録音(赤)、再生(青)となっています。ループ状のテープは走行しながら、順番に消去→録音→再生を行います。録音された音が再生ヘッドに至るまでに時間がかかるので、音が遅れて再生されるという仕組みです。再生ヘッドだけ複数あり、これらのヘッドを連続して通すことで、2重、3重のエコーが得られます。一番最後のヘッドだけを使うとロング・ディレイ、最初のヘッドだけを使うとショート・ディレイとなります。テープのスピードを落とすと、ディレイタイムは長くなり、その逆も可能ですが、再生環境が変わってくるため、得られる音質にも変化があります。
《名機紹介》テープエコーの世界的な定番機種「Roland RE-201 Space Echo」 – エレキギター博士
Roland RE-201の5連ヘッド
テープエコーの欠点として、テープ自体の劣化、テープ走行時のノイズの混入、走行速度の維持など、一定のパフォーマンスを得ること自体が難しいというところがあります。テープを張って録音再生を繰り返すのだから、これはある意味で当然と言えるでしょう。しかし、ともすれば欠点と思われがちな劣化した音やノイズが、音楽的に暖かいとしばしば語られます。それこそが、テープエコーが支持を受け続ける最大の理由となっています。
また、ギターエフェクターとしてではなく、本来がレコーディング機器として作られた機器では、信号劣化を抑制するためにエコー部分とは別に、高品位なプリアンプを内蔵しているものもあります。Echoplexのプリアンプ部分に至っては、現在それに特化したモデリングエフェクターが多数存在するほどです。
しかし、現物のテープエコーは高価で巨大な上にデリケートで調整が不可欠と、ギターのエフェクトとして単独で使用するには非常にハードルが高い機器です。
近年、デジタル・ディレイの残響音を劣化させてノイズをまぶしてテープエコー風のサウンドを狙ったモデルや、最初からテープエコーのサウンドを目標に制作されたアナログディレイ、果ては過去に使われたテープエコーマシンをシミュレートしたモデリングエフェクターなど、様々な製品が世の中に溢れています。現在、テープエコーのサウンドを得たい場合、それらを使うのが一般的でしょう。今回、その中から特に評判の高いモデルをいくつかピックアップしてみましょう。
高品質なオーディオインターフェイスやプレイヤー/エンジニアから高い支持を集めるUADプラグインなどの製品で知られるUniversal Audio社から、「UADプラグインを足元でコントロールできる」というコンセプトの元で登場したディレイ・ペダルが「UAFX Starlight Echo Station」です。テープエコーの名機「Maestro Echoplex EP-3」、アナログディレイの金字塔「Electro Harmonix Deluxe memory Man」、無垢で鏡のようなリピートが得られるスタジオ・デジタル・ディレイ「Precision」、3種類の伝説的サウンドを忠実に、執念とも呼べるほど細部に渡るまで再現しているのが特徴です。サウンドはUADプラグイン譲りのスタジオ品質で、高品質かつ濃密なサウンド。ステレオ入出力対応で、名機のサウンドを現代的な使い方に対応させることができます。
Universal Audio UAFX Pedal Series:スタジオ品質、濃密で心に響く重厚なサウンドの、リバーブ/ディレイ/モジュレーション3機種!
《スタジオ品質、濃密で重厚なサウンド》Universal Audio UAFX Pedalシリーズ – エレキギター博士
strymonのテープエコー再現ディレイマシン。上記のDecoと比べても明らかにディレイのみに特化して作られた設計となっています。スイッチで3つのモードを選択できますが、テープエコーの再現というところに準ずるものであり、固定された3つの再生ヘッドから一つを決めるモード、3つの中から2つを選んでダブルで鳴らすモード、再生ヘッドの距離を自分で決めるモードと、単なるディレイの枠組みに当てはまらないタイプセレクトが可能。その設定にはある程度のテープエコーに対する知識が不可欠となりますが、それだけに得られる音は真に迫ったものです。ほかにもテープの劣化具合やピッチの揺れも自在に設定可能。現代のディレイには定番となっているループ機能も完備し、まさに最強のテープエコーマシンの一つと言えるでしょう。
strymonは空間系エフェクター最高峰に君臨し続けている名ブランドですが、このDecoはただの空間エフェクターとは違います。エフェクターというよりも、異なる意図を持ったテープデッキ2台を一台でシミュレートしているといった方が正しいでしょう。「テープサチュレーション」セクションでは、テープならではのアナログ的クリップを与え、「ダブルトラッカー」というセクションでは、テープエコーや、コーラス、フランジ効果を与えます。そのシミュレート効果は絶品で、オリジナルのテープデッキに迫ったもの。気持ちの良い歪み感と暖かみのある残響音という、二つの望みを一度に叶えてしまう一台です。入力はギターレベルとラインレベルを両方受け付けることができ、ステレオ出力が可能。ギターエフェクターという使い方のみならず、実際にレコーディングでも威力を発揮します。
strymonからはテープエコーに対する並々ならぬ情熱を感じます。2019年2月に登場したVOLANTEは、ヴィンテージ・エコーのアルゴリズムを搭載した3種類のディレイ、スプリングリバーブ、ルーパーを搭載し、空間を幻想的に彩ることができる多機能なエコーマシン。テープやヘッドの状態を調節するツマミを装備し、テープエコーの挙動とそのサウンドを忠実に再現。32-bit浮動小数点処理によって現代の音楽シーンにもマッチする高品位なサウンドが得られます。
純国産の最高峰に位置するブランドFREE THE TONEのディレイペダル。DSPでの高速演算をベースに高音質なディレイを実現し、演奏中の曲を解析してディレイタイムをテンポに調整する「リアルタイムBPMアナライザー」、設定したディレイタイムから、それをややずらして再生する「ディレイタイム・オフセット機能」という世界初の機能を二つ搭載しています。ディレイ音にはハイパス、ローパスを掛け、アナログ、テープ的雰囲気を再現可能。ループは出来ないものの20秒の録音機能、ディレイ音の位相変換、MIDIコントローラーによるパラメータのリアルタイムコントロールなど、現代的な機能を全て網羅。ドライ音のオンオフが可能なところを見ても、スタジオ機器を視野に入れた一台と言えるでしょう。ただ、その平坦で飾り気の無いルックスは好みが分かれそう。
FREE THE TONE FT-1Y FLIGHT TIME
独特のルックスでひときわ目を引く製品が多いSource Audioですが、これはそんな同社が3年も掛けて作り上げたディレイ。ピッチシフト機能を内部に有し、それを利用することでテープエコーのアナログなサウンドを再現します。完全なるモデリングではなく、アナログをも再現できる多機能なデジタルディレイと言うべき製品になっており、テープエコー、アナログディレイのモードを始め、リバースディレイ、モジュレーション、スラップバックなど用途の異なる様々なスタイルのディレイを24種類も内包。プリセットを128種類保存でき、マルチチャンネルディレイとしてMIDIコントロール可能。また、専用のアプリを使えばフリーライブラリからプリセットをダウンロード適用可能と、TC ElectronicsのTONEPRINTに近い機能も持っています。
昨今、ハイクオリティなエフェクターで台頭してきた新興ブランドEmpressですが、このTape Delayはそんな同ブランドのテープエコーシミュレートディレイです。テープエコーのシミュレートにありがちなノイズを皆無と言えるまでに落としつつ、肝心のディレイ音は美味しいテープのサウンドを完璧に模倣した逸品となっています。テープの劣化具合をシミュレートする他、ハイパス・ローパスフィルター、モジュレーション、タップテンポに合わせて符割りを設定する機能、さらにアドバンストモードというモードで起動することによって、プリセットを設定し切替を行うマルチチャンネルのディレイとしても使えます。これだけの機能を小さな筐体に収めているのは驚異的ですが、同価格帯のハイエンドモデルと比較すると、ループ機能が無いのが唯一の弱点。
60~70年代、ギターサウンドに強い影響を及ぼしたEchoplexを、通常のエフェクターサイズで再現した物がこれ。ひとつの機器の再現のみを目指した、ある意味では潔い仕様で、エイジモードというモードをオンにすることで、暗い音質にテープサチュレーションが掛かったような、ヴィンテージトーンに近づけることができます。現代風のディレイなりに、外部スイッチを繋ぐことでタップテンポ入力が可能です。ディレイタイムは750ミリ秒までと現代の機器では控えめな数値になってはいますが、それでも当時のテープエコーからするとあり得ないロングディレイです。
Jim Dunlop Echoplex Delay EP103
Alter Egoはデジタル機器の定番メーカーT.C.Electronicsとアメリカの有名ギターショップのProGuitarShopのコラボレーションで生まれたディレイ・ペダル。これはその最新版とも言えるペダルです。ヴィンテージエコーの伝説的モデルのEchoplex、Echorecを再現したサウンドに加え、デジタルディレイの銘機TC2290を模したサウンドまで、全11種の幅広いディレイ・サウンドをモードで切替可能。さらに、TCの他のペダルと同じように、Toneprint機能で世界中のカスタムトーンを受信して、モードの一部として運用できます。他にもルーパー機能や、同社のFlashback Delayと同じく、タップテンポを足ではなく、ギターでリズムを刻むことで設定できるAudio Tappingなど、現代的な機能も目白押しとなっています。
上記のAlter Ego V2の原型となったモデルで、4つのスイッチを装備しプリセットを保存できる大型のディレイです。ディレイのモードは上記のAlter Ego 2を越える全12種。それに加えてTonePrintを常時4つ保存して選択可能。拡張性も素晴らしく、40秒まで可能な強力ルーパー、ステレオ入出力、符割り設定機能など、スタジオ機器に匹敵する大型ディレイマシンとなっています。プリセットを3種保存して、マルチチャンネル・ディレイとしても使用可能で、外部エクスプレッション・ペダルを装着すると、ディレイタイム、フィードバックなどを外部でリアルタイムコントロール可能。
Tape Core Deluxeは、中国のエフェクターブランドNUXによるテープエコーをモデリングしたコンパクトなディレイペダル。見た目からもわかるように、ROLANDのエコーマシン「RE-201」のサウンドを再現しています。オリジナルRE-201同様3つの再生ヘッドを装備し、7種類のディレイサウンドを組み合わせてテープならではの自然なサウンドを実現しています。アナログ・モデリング系としては比較的リーズナブルであるにも関わらず、DSP搭載による32bitの高品位なサウンドが得られます。
ECHOMANは、Electro Harmonix社の名機アナログディレイ「Deluxe Memory Man」の製作者であるHoward Davis氏を起用して制作されたミニサイズのアナログディレイ。オリジナルに搭載される MN3005 BBD チップを再現したXVIVE独自のオーディオチップを搭載し、コストを抑えながもデラックスメモリーマンのあのサウンドを再現しています。上述のNUXのペダル同様、アナログモデリングとしてはリーズナブルな価格となっており、メモリーマンのサウンドを手軽に手に入れることができます。
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