幽玄な世界へ:アンビエント・リバーブ・ペダル特集2025年4月11日

幽玄な世界へ:アンビエント・リバーブ・ペダル特集

残響はどこにでも存在するもので、音楽において欠かせないものです。ルーム、ホールなど、特定の空間を模した残響を加えて音に奥行きを与えるリバーブは、ギターエフェクターの世界においても定番のものとなっています。

しかし、昨今そのリバーブに変革が起きています。通常では存在し得ない無限に続く残響や、キラキラとした原音に存在しない音成分が響き渡る残響など、まるで自ら空間を作り込み、包み込んでいくような、独自の音世界を作り出すリバーブペダル…このようなペダルをアンビエント・リバーブと呼び、ここ数年で一躍格好を浴びる存在となりつつあります。今回はそんなアンビエント系リバーブに迫ってみましょう。

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リバーブの新しい世界を開いた「strymon blueSky」

strymon blueSky

strymonはもともとDamage Controlというブランドのメンバーが、2000年代になってからあらたに設立したエフェクターのブランドです。主に空間系をメインにしたラインナップで、スタジオ機器に匹敵する凄まじいクオリティで、アマチュアからトッププロまで多数のギタリストに愛されるブランドです。

そのstrymonが2010年に発売したリバーブ、blueSkyには「shimmer」という独自のモードが搭載されていました。リバーブ音に1オクターブ上の音を付加して、空間の広がりとキラキラとした成分を加える、その包み込むようなサウンドはまさに唯一無二で、それまでのギターエフェクターでは得られない個性的なものでした。blueSkyはそのshimmerモードをもって、アンビエント系リバーブというカテゴリのパイオニアとされています。

strymon blueSky V2

アンビエント系リバーブはシンセ発祥?

アンビエント系と聞いて思い浮かぶアンビエント(環境)音楽。このジャンルはシンセサイザーの独壇場で、その創始者とされるブライアン・イーノcの音楽などを聴くと、複雑な残響成分が絡み合って音空間を構築する、独特なサウンドが印象的です。現在見られる高品位なアンビエント系リバーブにはこの辺りのサウンドをモチーフとしたものも少なくありません。
ギタリストにも、ピンク・フロイドのデビッド・ギルモア氏など、空間創出を個性として名を馳せたプレイヤーは存在しましたが、現在のリバーブに見られるような複雑なサウンドではありませんでした。ギターエフェクターのように小型の機材でこのように複雑なサウンドを得られるようになったのは、ひとえにDSP技術の進化に伴うところが大きく、現在ではギターエフェクターというカテゴリでありながら、レコーディングスタジオでも使えるような高い品質を持っていたり、シンセ対応のラインレベル入力を備えたものも多数見られます。

注目のアンビエント系リバーブペダル

通常のリバーブマシンにアンビエント系サウンドが付随しているもの、始めからアンビエント系を狙って作られているもの、設計の時点でこの二種にわかれています。使用用途によってまずそこから決めていくと良いでしょう。

PiGtRONiX COSMOSIS I

PiGtRONiX COSMOSIS I

2025年2月登場。
3つの独自リバーブ・アルゴリズムと、リアルタイムで音色を変化させる「Morph」機能を搭載した、コンパクトなリバーブ・ペダル。洗練されたデザインとサウンドもさることながら、Morph機能ではスイッチを長押しすることで、トーン、ブレンド、サイズの各ノブに設定した値を滑らかに変化させる事が可能。部屋のサイズを小さくした状態から大きくするといった変化をリアルタイムで加える事ができます。このユニークな機能を小型サイズで可能にするのは嬉しいところ。

PiGtRONiX COSMOSIS I

strymon BigSky MX

strymon BigSky MX

2024年5月登場。
同社を代表する名作多機能リバーブ「BigSky」のアップグレード・モデルで、さらに高品位なサウンド、新たなアルゴリズムの搭載、2つのリバーブを組み合わせるデュアル・モード、IRの編集機能を追加。3コアの800MHz ARMプロセッサの採用により音の解像度や広がり、リアルさを追求。既存のアルゴリズムのサウンドもブラッシュアップされ、単体リバーブペダルとしては究極と言える品質に仕上がっています。

strymon BigSky MX

Walrus Audio Fundamental Ambient

Fundamental Ambient

2024年3月登場。
コストパフォーマンスに優れた「Fundamental」シリーズのリバーブ・ペダル。3つのリバーブモード全てがスタンダードとはかけ離れたアルゴリズムで、操作系統もシンプルで直感的。比較的安価にWalrus Audioのアンビエントを存分に楽しむ事ができます。

Walrus Audio Fundamental Ambient

strymon Cloudburst

strymon Cloudburst

2023年2月登場。
strymonらしい広大で荘厳なリバーブ・アルゴリズムと直感的な操作性を実現させたモデル。従来機の多くに搭載されていたセカンダリー機能や隠し機能は省略、しかし素晴らしいサウンドとバリエーション豊かなトーンは健在という指向性。モノラル/モノラル → ステレオ/ステレオ 3種類の出力モードを切り替えて使用することが可能で、高品質なサウンドを余すところなく発揮できるでしょう。

strymon Cloudburst

Walrus Audio Lore Reverse Soundscape Generator

Walrus Audio Lore Reverse Soundscape Generator

2022年7月登場。
リバース・ディレイとリバース・リバーブを中心に構成されたアンビエント・クリエーション・マシン。5つのプログラムが用意され、プログラムの選択によってツマミの役割が変化し、それぞれに詳細な音作りの追い込みが可能。独立した2つのDSPチップを備え、リバース、タイムストレッチ、ピッチシフトを駆使し、広大な冒険物語のようなサウンドを創り上げます。

Walrus Audio Lore Reverse Soundscape Generator

Universal Audio Golden Reverberator

UAFX Golden Reverberator

2021年5月にリリースされた「UAFX Golden Reverberator」は、プレイヤーやエンジニアから高い支持を集めるUniversal Audio社の「UADプラグインのサウンドを足元でコントロールできる」というコンセプトのリバーブ・ペダル。搭載されているのは SPRING/PLATE/HALL というオーソドックスなリバーブですが、それぞれMODツマミによってモジュレーションを加えていくことが可能。例えば SPRING では Echoplex EP-3 の不安定な回転によって得られる揺れのような効果を加えることができるなど、抜群のアンビエント効果が得られます。
UADプラグインから移植されているサウンドもあり、品質はスタジオグレード。高音質・濃密なリバーブ・サウンドを得ることができます。

Universal Audio UAFX Pedal Series:スタジオ品質、濃密で心に響く重厚なサウンドの、リバーブ/ディレイ/モジュレーション3機種!

《スタジオ品質、濃密で重厚なサウンド》Universal Audio UAFX Pedalシリーズ – エレキギター博士

Strymon NIGHTSKY

NIGHTSKY

2020年10月登場。3種類のリバーブタイプを搭載し、リバーブにモジュレーション/ピッチシフト/ハーモニクスを加えたり、シンセサイザーのようなフィルターを加えたり、シーケンサーを走らせたりするなどして、リバーブの境界を超えた新次元のサウンドを生み出すことができる、多機能シンセシス・リバーブ・マシン。5つのセクション(モジュレーション/リバーブ/イコライザー/ピッチ、ハーモニクス、ディストーション/MIX)を個別にコントロールして音作りを追い込み、理想とするリバーブサウンドを生み出すことができます。マシンの性能は高く、高品質かつユニークなサウンドが楽しめます。

Strymon NIGHTSKY

Old Blood Noise Endeavors MINIM

Old Blood Noise Endeavors MINIM

モジュレーションリバーブとリバース機能を持つモジュレーションディレイが一体となったマシン。アンビエント系のサウンドを作り出すための専用マシンという位置づけとなっており、あまり他に見られない仕様を持っています。
上部のディレイセクションと下部のリバーブセクションに分かれており、それぞれの深さを別にコントロールした上で、タイムやフェードバック、ディケイなどのよく使われるコントロールがそれに付随しています。ディレイの方にはモジュレーションが付いており、フィードバックを最大まで回すことで発振を起こさない範囲で無限に反復可能。リバーブにはモジュレーションの深さを別個コントロールできます。ディレイについては反復音を逆再生させるリバースモードを搭載しており、フットスイッチで切り替えることができます。逆再生音を倍速で鳴らすというモードもあり、実に多彩なサウンドを構築できます。

Old Blood Noise Endeavors MINIM

SOURCE AUDIO SA263 COLLIDER

SA263 COLLIDER

同社の人気商品Nemesis DelayとVentris Dual Reverbから人気プリセットを移植して、それを一度に一台で使えるようにした贅沢なモデル。
通常のディレイ、リバーブの複合エフェクターとしても非常に優秀ですが、ShimmerリバーブモードやReverseディレイモードなどを併用、さらにReverbフットスイッチは長押しすることで余韻をフリーズさせ流し続ける事ができるので、えも言われぬ幽玄な空間を構築することも可能です。二基搭載されたDSPはディレイにもリバーブにも使うことができるので、ディレイ+ディレイなどという使い方も可能。ペダルだけで4つのプリセットが保存でき、別途MIDIを使うことで128ものプリセットを操ることができます。ここに紹介する製品の中ではトップクラスに高価な一品ですが、それに見合うだけのクオリティを誇る一台です。

SOURCE AUDIO SA263 COLLIDER

EarthQuaker Devices Afterneath

Afterneath

一風変わったペダルを多数リリースするEarthquaker Devicesのリバーブ。こちらのモデルはショートディレイを多数重ねてリバーブの効果を得るというもので、幽玄かつ密度の濃い反響が特徴。本体に描かれたイラストの通り、洞窟の中にいるような独特な響きを作り出すことができます。

広がりを調整するDiffuseやトーンを設定するDampenなどは通常のリバーブでもよく見られるコントロールですが、Dragとそれに伴うModeがこの機種の真骨頂。Dragは左に回すとディレイ感が強くなり、右に回すほど密度が高くなりリバーブらしさが増すと説明されていますが、演奏中にリアルタイムでコントロールして、残響音の音程を上下させることができます。音程の変化の仕方はModeで変更します。ギターのみならずシンセで使われることも想定しており、モジュラーシンセ用の別バージョンも存在します。

EarthQuaker Devices Afterneath

Walrus Audio Slo

Walrus Audio Slo

マルチテクスチャーリバーブと銘打たれ、アンビエント系サウンドに特化したリバーブペダル。リバーブは一般的なRoomやPlateなどを一つも含んでおらず、残響に1オクターブ下の音を含んだdark、ふわっと立ち上がるrise、残響をフリーズさせ流し続けるdreamという、特徴的な3種類を搭載。Xコントロールではそれらに合わせて特有の成分を一つずつコントロールできます。その他、減衰を長引かせるsustainフットスイッチや、リバーブ成分のピッチを操るモジュレーション機能がそれぞれ3種用意されており、多彩なサウンドが再生可能。個性的なサウンドは他になかなか得られるものではなく、ギターサウンドの可能性を広げてくれそうな一台です。

Walrus Audio Slo

Walrus Audio Fathom

Walrus Audio Fathom

上に挙げている同じWalrus AudioのSloに比べ、より一般的なリバーブに近いモデル。Hall、Plate、Lo-Fi、Sonor(シマー系)の4種をリバーブタイプとして備えており、Slo同様に5種のコントロールを搭載します。残響をストップして流し続けるsustainスイッチについてもこちらにも備え付けられています。アンビエントリバーブの世界が堪能できるのはSonorモードで、Xコントロールによりオクターブアップのサウンドの混ぜ具合を調整可能。通常のリバーブマシンにシマー系が一つのモードとして備わっているという作りから、strymonのblueSkyと同系統の立ち位置にあるペダルです。

Walrus Audio Fathom

Chase Bliss Audio Dark World

Chase Bliss Audio Dark World

アンビエント系の独特の響きを持つDarkチャンネルと、正統派なリバーブの響きを持つWorldチャンネル、二種のリバーブをデュアルチャンネルで扱うことのできる、世にも稀なリバーブマシン。片方ずつをフットスイッチでオンオフできるため個別使用はもちろん、ミニスイッチにより接続順を入れ替えたり、同時パラレル使用も可能で、その組み合わせは全33種類。
スウェル機能やフリーズ機能も備えており、美しい正統派のリバーブから、音が飛んだレコードのようなグリッチサウンド、または深く幽玄な空間など、多彩なサウンドを構築可能です。特にノイジーなグリッチ系のサウンドが作れるリバーブは少なく、その点において他のモデルとは違う機構を有していると言って良いでしょう。2種のリバーブを併用できるという部分からも、サウンドの幅広さはトップクラスです。

Chase Bliss Audio Dark World

TC Electronic Fluorescence Shimmer Reverb

Fluorescence Shimmer Reverb

シマー効果に特化したリバーブ。ここで紹介されている製品中でも価格が最も安く、その分モード切替などもなくコントロールも非常にシンプル。Shimmerコントロールで高域部のキラキラした成分をコントロール、そしてToneで残響音そのものの音質を設定します。さすがに高価格帯モデルに比べると機能、音質ともに及びませんが、そもそも安価なモデルが少ないカテゴリでもあり、とりあえず一度Shimmerリバーブを試してみたいという向きにはうってつけの製品です。

TC Electronic Fluorescence Shimmer Reverb

MOOER A7

MOOER A7

深圳発祥の中国を代表するエフェクターブランドMooer。こちらは7つのモードを含むAmbience ReverbということでA7と銘打たれたモデル。通常のPlate、Hallの他に、モジュレーションがかかるWarp、Shake、ローファイが掛かるCrush、オクターブ上の音を追加するShimmer、スローアタックが掛かるDreamの全7種を搭載。Chaosというつまみを使い、それぞれのリバーブの特徴的な成分をコントロールできます。また、フットスイッチを長押しすることで、リバーブ音を永続させるINFINITE Trail機能が発動し、独特の包み込まれるような世界を作り出すことができます。各モードについてプリセットを保存できるなど、この価格帯では使いやすさはトップクラスです。

MOOER A7

Bananana Effects ABRACADABRA

Bananana Effects ABRACADABRA

ここに紹介した中でももっとも前衛的な効果を持つリバーブ。公式HPの文言にある「リアルな残響を作ることができません」という一文は、このモデルの方向性を端的に示しています。8種のリバーブタイプは定番のシマー系にはじまり、オクターブ上の残響音にヴィブラートがかかるものや、残響をホールドするフリーズ機能にコーラスを掛けるもの、ディレイと倍速リバースディレイが同時に掛かる説明不能なerror delay、入力音にホワイトノイズが混ざるモードなど、いずれも異様に個性的なものが並んでいます。小型の筐体にところ狭しと付けられたコントロールではかなり強烈な設定までをつくることができ、サウンドそのものを楽しむのに最高の一品となっています。演奏に残響を与えるリバーブと言うより、これ自体を一つの楽器として見るべき立ち位置にあるでしょう。ギター以外にも打楽器などにも使う事が想定されており、様々な楽器に対して最適なチューニングが施された設計になっています。

Bananana Effects ABRACADABRA


個性的なものばかりが並ぶアンビエント系リバーブ。ギターに対する効果というより、それそのもののサウンドを楽しむという点で、既存のリバーブとは似て非なる系統と言えるでしょう。あまり安価な製品がないため、導入に踏み切るのに多少勇気がいりますが、上手く使うことができれば楽曲に対して素晴らしく個性のあるサウンドをギターという楽器から放つことができます。新しいサウンドを取り入れてみたい方は一度試してみてはいかがでしょうか。