トランスペアレント系ローゲインオーバードライブ特集2015年12月28日

トランスペアレント系ローゲインドライブペダル特集

数多くのオーバードライブ系ブティックペダルが世を席巻するようになりずいぶん経ちますが、ここ数年「トランスペアレント系」と呼ばれるオーバードライブが人気を博してきています。その名の通り”透明感”を感じる歪みという意味合いですが、具体的に言い表すとすれば「アンプとギター本来の音を変えてしまうことのない、味付けの少ないピュアなオーバードライブ」といったところでしょうか。

トランスペアレント系オーバードライブとは

昨今、原音をあまり変化させないクリーンブースターなどの機種が市場に溢れてきていますが、そのような「原音を崩さない」というスタンスのエフェクターは、ますます増えるばかりです。現代で好まれるのは、80年代ごろに多かった、中域や高域にクセのあるいわゆるエフェクターっぽい音ではなく、アンプそのものにより近く、低域から高域までしっかりと再現できるレンジの広さを持ち、ピッキングのタッチやギター側ボリュームの変化などに敏感に反応できるナチュラルな音色。
トランスペアレント系オーバードライブではどの製品でも一貫して、アンプ感を損なわない、というところが大きく取り上げられますが、まさにこのような潮流の中で生まれてきた歪みペダル達と言えます。また、その多くがゲインを下げるとクリーンブースターのようにも使うことが出来、様々な用途に使える取り回しの良さを備えているのも人気の一因でしょう。

トランスペアレント系のはしり:Timmy Overdrive

2013年頃から評判が高くなったエフェクターがあります。Paul Cohcrane(ポール・コクレーン)の「Timmy Overdrive」です。Timmyは先んじてアメリカ本国で大流行し、その後日本に少しずつ上陸してきました。コクレーン氏はもともとアンプのデザイナーであり、エフェクターを作る際、自分の作ったアンプの良さを最大限発揮できるように作り上げたのでしょう。

このエフェクターはTrebleとBassの回路がパッシブタイプとなっています。すなわちカットは出来てもブーストは出来ない仕様になっており、さらにこの2バンドEQを配置する場所をGainの後段にして、ナチュラルな変化になるよう作られています。モードを選択するディップスイッチが付いており、音に掛かるコンプレッションを3段階で制御できるのも特徴です。

このTimmy Overdriveは、極めて原音に忠実でレスポンスが非常に良いオーバードライブとして評判を呼び、じわじわと日本でも売れ続け、いつの間にか定番オーバードライブの仲間入りを果たしてしまいました。それまで、これほど原音に忠実なエフェクターが滅多に無かったという証明でもあるでしょう。このエフェクターが現在トランスペアレント系と言われるもののはしりとされています。

Paul Cochrane「Timmy」

どのようなペダルがトランスペアレント系と言われているか

上での説明の通り、レスポンスが良く過度な味付けが無い、というものが当てはまります。Timmyがそうであるように、高域と低域のレンジが広いという定義もできるでしょう。定義自体は曖昧なものなので、ゲイン幅に関してはほとんど歪まないものから、よく歪むものまで様々。性質上、アンプをプッシュするためのブースターとして使われることが多い分野ではありますが、ある程度のゲイン幅のあるモデルであれば、メインの歪みとして単体でガンガン使うことも出来ます。
また、前述の通り、単体でクリーンブースターのように使用できるものが少なくないので、非常に幅広い用途をこなせる万能選手でもあります。

代表的なトランスペアレント系オーバードライブ

トランスペアレント系オーバードライブと言われているエフェクターをいくつか紹介していきます。現行品として手に入りにくいモデルもいくつか存在します。

MXR CSP027 Timmy Ovedrive

Timmyの産みの親ポール・コクレーン氏とのコラボレーションによって誕生した、「Timmy」の後継機種。MXRのミニサイズの筐体に Timmy Overdrive のコントロールとサウンドをそのまま詰め込んでおり、オリジナル同様のサウンドが得られるだけでなく、コストパフォーマンスに優れ、エフェクターボードにも収まりやすいサイズになっています。Timmyのサウンドを求めている人はもちろん、トランスペアレントな歪みの入門機としても最適な一台です。

MXR CSP027 Timmy Ovedrive

Vemuram「Jan Ray」

マイケル・ランドゥの使用で一気に知名度を上げ、爆発的な人気を獲得した和製ハンドメイドエフェクター。60年代のFender Blackfaceの音を目標として制作されています。ゲイン幅は最大でそれなりのオーバードライブトーンが得られますので、ハードロックまでは無理としても、フュージョン系の演奏程度なら十分に対応できます。艶やかでクセの無いドライブサウンドは、さすがに凄腕スタジオミュージシャンに認められるだけのクオリティを持ち、設計者の思惑通り、真空管アンプとの組み合わせでは絶品のトーンをたたき出してくれます。

反面、JC-120のようなトランジスタアンプとの相性はそれほど良くないので、トランジスタを使う前提ならば他の選択肢が無難かもしれません。

Vemuram「Jan Ray」

Mad Profsessor「Royal Blue Overdrive」

フィンランドの人気ブランドMad Professorの送るトランスペアレント系オーバードライブ。GainとVolumeにTreble/BassというTimmyと同様の4ツマミ仕様で、トランスペアレント系の中では幅広いレンジでゲインが変えられるのが特徴です。ゼロでクリーンブーストになり、そこから上げていくと、かなりしっかりしたオーバードライブサウンドまで歪んでいきます。コンプ感はやや強めで、ゲインを上げていくと中域が若干強調されるような印象もありますが、あくまでも透明感のあるサウンドです。

Mad Profsessor「Royal Blue Overdrive」

JHS pedals「Morning Glory」

アメリカの人気ブランドJHS Pedalsのオーバードライブ。Volume、Drive、Toneという3つのつまみに加えて、ハイカットのスイッチが付いています。ピッキングの強弱に極めて敏感に反応してくれるところは特筆すべき点で、ゲイン幅が狭いぶん透き通った音が特徴であり、クリーンブースターとしても非常に優秀。トーンは上げてもキンキンせず、ジャキットした成分だけが強調されてきます。ハイカットは劇的な効果は得られませんが、耳に痛い成分だけを溶かすような効果が得られます。電池駆動出来ないのが玉に瑕。
ちなみに、OASISの名盤と同じ名前ですが、単なる「朝顔」という意味以上ではないようです。

JHS pedals「Morning Glory」

Walrus Audio「Mayflower」生産完了

「Messner」がブースター的使用も可能に設計されているのに対し、「Mayflower」は一般的なオーバードライブに近いサウンドが得られ、単体で使うことを前提として作られている印象が強いです。つまみもVolume、Gain、Treble、Bassと一般的なもの。音色は透明感溢れるもので、全帯域がきれいに歪んでいく印象。特別に持ち上がってしまう周波数のポイントがないため、歪みを上げてもコード感がつぶれることがなく、各弦の分離がはっきりしています。BassとTrebleが分かれているのも、細かい調整がしやすく嬉しいポイントです。ゲイン幅はそれなりに広く、クリーン~クランチから強めのオーバードライブまで作ることが出来ます。

Walrus Audio「Mayflower」

WALRUS AUDIO「WARHORN」

惜しまれつつ生産が終了した同社製のトランスペアレント系ペダル、「Mayflower」のサウンドを継承した、同じくトランスペアレント系のオーバードライブ・ペダルです。基本的な操作系統はゲイン、ボリューム、高/低音域をカットする2バンドEQと、Mayflowerからの変更はありませんが、サウンドのキャラクターを変化させる2ポジション・トグル・スイッチが追加されています。
上のポジションでは強いコンプ感とブルージーな歪みを持ちつつも、音が潰れず透明感が特徴的なMayflower譲りのサウンドが得られます。下のポジションでは、上のポジションとは対照的な明るくオーガニックでハリのあるサウンドを得ることができます。1台に2種類の高品位なトランスペアレント系の歪みを搭載した、シチュエーションに合わせたサウンドのスイッチングも簡単にできる便利な1台です。

WALRUS AUDIO WARHORN

WALRUS AUDIO「MESSNER」

昨今、様々なハンドメイド系ペダルで人気を博すWalrus Audio。「Messner」は演奏者のタッチやピックアップの特性などを、そのまま保った状態でドライブさせてくれます。Gain、Color、Volumeというおなじみのコントロールに、クリッピングダイオードを通すか否かを決めるためのスイッチがついており、これによって2種類の音色を使い分けるようになっています。この辺りはTimmyやBlues Boxに近い要素といえます。
音色は非常にクリアーで、看板に偽りなしと言ったところ。ゲイン幅はそれほど広くはありませんが、歪んだ音色も弦の響きをそのまま感じられる生っぽいサウンドであり、コードのかき鳴らしや、ブルース系のリードなどには力を存分に発揮してくれそうです。

WALRUS AUDIO「MESSNER」

Leqtique「Rochechouart」

Rochechouartは、Shun Nokina氏が制作する国産エフェクターブランド Leqtique によるトランスペアレント系オーバードライブ。同社のTS系エフェクター「Maestro Antique Revised(MAR) を進化させたような」ペダルということで、MAR に比べてよりスムースで箱鳴り感が加えられています。ピッキングタッチへの敏感な反応、コンプレッションが効いた透き通るようなオーバードライブ・サウンドは、クリーンブースターとしても良好、ストラトキャスターなどシングルコイル・ギターとの相性もバッチリ。2万円を切る価格帯となっているのも魅力的です。

Leqtique Rochechouart

同じくShun Nokina氏が2016年12月から始動させたブランド「L’(エル)」から、Leqtique Rochechouartのミニサイズ版と言える「L’ Roch」がリリース。Rochechouartのサウンドを継承し、超小型ながら4ノブ・2パッシブEQとトランスペアレント系ドライブ・ペダルを踏襲したエフェクターとなっています。

L’ Roch

Electro Harmonix「Crayon」

エレクトロ・ハーモニクス社の公式の説明によると、リッチな倍音成分とレンジの広さを備えるオーバードライブ。その説明どおり、非常に煌びやかな倍音と、ピッキングのダイナミクスまで綺麗に再現するレスポンスの良さを備えています。恐らくTimmyを意識したのは間違いないと思われますが、普通のトランスペアレント系とは違い非常に広いゲイン幅を持つので、前段にかますクリーンブーストから単体でのハードなドライブサウンドまで、ガンガン使っていける懐の広いオーバードライブと言えます。
ブティック系ペダルが群雄割拠する中で、1万円代前半の価格は非常に魅力的です。(なおJHS Pedalsにも同名のエフェクターがありますが、関連性は無い模様)。

Electro Harmonix「Crayon」

DANELECTRO CTO-2 Transparent Overdrive

CTO-2は製品名にTransparentとあるように、Timmyのクローンペダルとして作られた、透明感のある歪みサウンドを実現したオーバードライブ・ペダル。DANELECTRO の Cool Catシリーズのペダルということで、コストパフォーマンスに優れたトランスペアレント系ドライブの入門機種と言えます。
TimmyとCTO-2を比較した動画を確認するとCTO-2のほうが若干レンジが狭いことが伺えますが、価格帯に見合わずクオリティが高いと評判のモデルです。

DANELECTRO CTO-2 Transparent Overdrive

Analogman「Prince of Tone」

Analogmanの2チャンネル仕様オーバードライブ「King Of Tone」を一つのサイズにまとめたドライブペダル。クリーンブースト、オーバードライブ、ディストーションと三つのモードを使い分けることが出来、全体的な音の傾向を内部のDIPスイッチで微調整できるので、幅広いサウンドメイクが可能。ディストーションはこの「Prince Of Tone」独自の仕様になっており、マーシャル系のジャキっとした歪みが得られます。クリーンブーストは非常にレンジが広く透明感のあるブーストサウンド。オーバードライブモードはベースをTS系においたサウンドで、中域に粘りのある歪みのサウンドが得られます。現行品は手に入りにくい状態です。


トランスペアレント系ペダルをいくつか紹介していきましたが、Lovepedal OD11 や Hermida Audio Zendriveをはじめ実際の所はまだまだたくさんの製品が存在します。色々な機種を見てみるとわかるように、音色的には、「クセがなくアンプとギターの良い部分を崩さない」という原則は守りながらも、その中でモード切替やゲイン幅、変化させられるEQの帯域など、各社それぞれの個性を競っているような印象です。人によって欲しい音は千差万別。自分に合ったものを探してみるのも面白いのではないでしょうか。

また、トランスペアレント系以外にもローゲインオーバードライブとして評価の高いペダルは存在します。CMATMODS ButahShigemori RUBY STONEなど、エッジの効いたキレのあるドライブサウンドを求めている人は一度確認してみて欲しいモデルです。