かつてはディストーション、オーバードライブと聞くと、そのペダル一つにつき一種類の音だけが出るのが当たり前でした。しかし、クリッピングを選択できるようなものが増えるに従い、異なるサウンドキャラクターが一種のペダルから得られるようなモデルが増え、現在では数種の音を使い分けられるものが当然のように存在しています。
この手の製品ではやはりプリセットを登録できるデジタルモデリング系が多く見られますが、空間系も含めてあらかた全エフェクトが入っている”マルチエフェクター”が当たり前であった以前と比べ、歪みやアンプだけに特化したこのような製品は、機材の組み方に多様性が生まれてきた証拠として特筆できるでしょう。また、依然モード選択をつまみで行うアナログものも健闘しており、デジタルにはない面白い製品が多く見つかります。今回、そんなマルチな歪み系ペダルやアンプシミュレーターを集めてみました。
優れた空間系エフェクターでその地位を不動のものとしたstrymonが放つ最高峰オーバードライブ。内部に6つの歪みキャラクターを備えており、それぞれAチャンネルに3つ、Bチャンネルに3つが割り当てられ、それぞれ選んで使用します。片方のみはもちろん、両方をオンにすることもできるため、通常のディストーションなどに比べてもはるかに多彩な音色が得られます。Aチャンネルにはブルースやクラシカルロックなどに合った歪み、Bチャンネルにはハードなものが割り当てられており、どのサウンドもstrymonらしく恐ろしいほどに高品質。同社の他ペダル同様、プリセットを一つ登録でき外部ペダルによってリコール可能。単一の歪みペダルとして見た際に作れる音の幅広さと品質が群を抜いており、大人気を誇るのがよく分かる秀逸なエフェクターです。
アナログとデジタル回路を組み合わせたハイブリッド設計のオーバードライブ。同じ設計思想で作られたOD-1X、DS-1Xで得られるサウンドの延長にありながら、歴代のBOSSエフェクターにラインナップされたBlues Driver、Power Stack、Metal Zoneなどのエフェクターが搭載されており、サウンドキャラクターは計12種に及びます。32bit/96khzのサンプリングレートでのサウンドは非常に綿密であり、膜が取れたような鮮やかさを感じる高品質な歪みが得られ、さすがにBOSSのフラッグシップモデルであることを感じさせます。また歪みセクションに加え、同時にセッティング出来るブースター18種が用意され、様々なドライブサウンドを一台でこなせるようになっています。アップデートにより128種ものセッティングがプリセットできるようになり、外部フットスイッチやMIDIコントローラーを繋げばマルチエフェクター並の柔軟な運用が可能、あらゆるシチュエーションを凌げる一台となるでしょう。
ギターアンプシミュレーターソフトウェアの代表格、Amplitubeの中に収められる歪みペダル16種類をハードウェアで使えるようにした、マルチプログラマブルエフェクター。Amplitube 5にて別途ソフトウェア版のX-DRIVEを使うことができ、それとハードウェアの本機をほぼシームレスに統合できるようになっています。16種類のドライブにはオーバードライブ、ディストーションはもちろん、ファズやコンプレッサーなども含まれており、歴史的銘機のクローンを始め、IK Multimediaオリジナルのものまで実に多彩。300種を登録できるプリセットを切り替えることで、一台で多様な役割を果たすことができ、また付属のキャビネットシミュレーターをオンにすることで、直接PAへサウンドを送ることも可能です。2016年に登場したPositive Grid社のBias Distortionと設計思想が似ているものの、ディスプレイを装備しながらより軽量を実現、複数の音色を切り替えることに主眼を置いているという点で、本機はよりハードとソフトの統合というシステムをうまく生かしているという印象です。
IK Multimedia AmpliTube X-DRIVE
数多くの良質なペダルを送り出し、2010年代を経るとともに定番エフェクターメーカーとなったJHS Pedals。このBonsaiは”盆栽”という名から想像できる通り、日本発のオーバードライブをトリビュートする意味合いを持ち、ベースとなっているサウンドはいずれも日本から送り出されたIbanez TS-808、TS-9、TS-10、BOSS OD-1となっています。さらにそれらの機種のモディファイ版までもをシミュレートするこだわり具合で、総じて9つものオーバードライブをモード切替にて一台で使えるようにした驚くべきモデルです。Keeleyのモディファイ品やポーランドのExarによるOD-1モディファイ品、TS系をベースにしたMetal Screamer、本家JHS PedalsがリリースするTS-9 Strong Mod.を全て含み、その内訳はマニアック極まると言って過言ではなく、まさにTS系を極めたペダルと言ってよい仕上がりになっています。得られる幅広い音色は、TS系の定番であるブースター使用はもちろん、単体での使用にも十二分に耐えるでしょう。
世に数多く存在するファズペダルの中でも、もっとも愛用者が多く、王者とさえ言えるElectro-Harmonix Big Muff。1967年に登場以来多くのギタリストを虜にしたそのサウンドを、このMuffulettaは全面的に模倣しており、多く存在する”Big Muffクローン系”ペダルの中でもトップクラスのクオリティを誇る一品です。Big Muffは登場以来、内部の設計や外観が変わっており、Triangle、Rams Head、Pi、Civil War、Russian Muffなど数々の通称名を付けられながら変遷してきていますが、そのどれもがそれぞれ高い評価を得ているところは、特定の時期のものだけが持てはやされやすいヴィンテージペダルの中でもまさに異色。Muffulettaはそれらの5種類に加え、JHSならではの味付けを加えた新モードを含めた6種類を選んで使うことができます。それぞれが各時代のモデルに使われたものと同じ回路を通して、非常に近いサウンドになるようにチューンされており、Big Muffトリビュートペダルの中でももっとも幅広く使え、定番となりうる製品になっています。
Muffuletta、Bonsaiに続くJHS Pedalsの歪み系マルチ「PACKRAT」。1979年に登場し定番ディストーション・ペダルとして不動の人気を誇るRATの、歴代サウンドを1台に集約したコンパクトなペダルです。収録しているのは1979年発売当初のモデル「RAT V1」から、1984~1986年のホワイトフェイスRAT、1989年のTURBO RAT、2010年のCAROLINE WAVE CANNON、そしてJHS Pedalsオリジナルのサウンドまで全部で9種類。ファズにも似た独特のディストーションサウンドが特徴的で、RATのサウンドに拘りがあるという人におすすめです。
大きな象のイラストが目を弾く、Walrus Audioでもっとも幅広い音色に適応するオーバードライブペダル。随所に通常のオーバードライブと異なる思想での設計が成されており、ペダル型歪みエフェクターには珍しいドライ/ウェットのコントロールがあること、オーバードライブの前段に低域を制御するためのコントロールがあること、キャラクターのかなり違うモードが5種類も存在することなどが挙げられます。
ブレンド機能ではドライ音を適度に混ぜることで芯の強さを確保でき、もちろんドライをゼロにすることで従来のオーバードライブとしての使用も可能。BASSコントロールは歪みの前段に位置しており、あらかじめ低域調整した状態で歪ませるため、サウンドキャラクターの変化具合が強く、そのために様々な使い方が考えられます。ちなみに、並行して設置されるTREBコントロールは歪みセクションを通過した後のセッティングを担っています。モードスイッチには2種類のローゲイン、3種類のハイゲインサウンドがセットされており、クラシカルなジャキッとしたドライブから、TS系の中域にピークがあるドライブ、しっかりと歪んだハード目のオーバードライブからトランスペアレント系の薄い歪みまで、様々に使えるサウンドを提供してくれます。
Walrus Audio Ages Five State Overdrive
上記のAges Five State Overdriveの設計思想をそのまま受け継いだディストーション。コントロール類やセッティングの方法についてもほぼ酷似しており、生音の割合を表すDryと名付けられていたコントロールが、当モデルではクリーンとディストーションの”Blend”になっており、芯のあるディストーションを得るための強力な武器となっています。bassやtrebはほぼ同じ働きをし、modeに5種類のディストーションが含まれているのもオーバードライブと同じです。5つのモードはそれぞれ、ミュート奏法に向いたタイトなmode I、よりコンプレッションの強いタイトなmode II、シリコンとLEDでのデュアルクリッピングによるリッチなディストーションのmode III、大胆に中域を削ったドンシャリのmode IV、ドンシャリ系でありつつもさらに分厚いmode Vとなっています。クラシカルなロックから、現代風なメタル系サウンドまで幅広く作り込むことができるでしょう。
Walrus Audio Eras Five-State Distortion
Sansampセクションでの歪みサウンド兼アンプシミュレーターとともにリバーブとディレイが付随し、アナログマルチエフェクターの体裁を成している製品。幅32cm、580gという小型軽量の中に必要十分なものが詰まっており、各セクションが並んでいるだけの単純な設計ゆえに、通常のエフェクターを並べただけのような直感的な使い心地が得られます。根幹を成すSansamp部ではBlondeセクションにおいてチューブアンプのエミュレーションとベーシックなサウンドを作り、さらなるハードドライブを得るためにPlexi/Caliセクションでのゲインアップを行うという2系統の設定が可能。Blondeセクションにおいては本家Sansamp譲りの高品質アンプシミュレーターを内蔵し、通常のアンプと同様の感覚での音作りが可能。Plexi/Caliはその名の通り、マーシャルに似た激しいドライブサウンドを得る際に使用し、モダンかクラシカルかサウンドの傾向を選ぶためのCaliスイッチを装備します。本体には他にアンプの前段、後段が選べるBOOSTスイッチまでも装備し、現場での利用において死角は見当たりません。マルチエフェクター的な設計ながら、アンプ部分に特に力を入れて作られており、優れたアナログの歪みが欲しいというニーズにうまく応えた製品と言えるでしょう。
入力信号を高電圧プラズマに変換し、キセノン管に3500Vの放電を行うことで歪みを得るという、これまでに全く存在しなかった機構で一躍話題となったPlasma Pedal。このPlasma Coilはその設計思想をそのまま引き継ぎ、その上でビットクラッシャー的に音を壊すエフェクトやオクターブ上下の音をプラスするエフェクトを追加したもの。これらのエフェクトはオンオフとは別のスイッチにてラッチ、アンラッチでの使用が可能で、曲中でピンポイントに使用することもできるようになっています。サウンドは放電というイメージそのもので、破壊的なディストーションから壊れかけたファズのようなサウンドまで、非常に個性的なものが構築可能。これまでのどのようなディストーションとも違うサウンドですが、これでしか得られない音色があるのは間違いなく、新たなジャンルの楽曲を生み出す可能性を秘めています。
すっかりおなじみのメーカーとして浸透した中国深圳発祥のMooer。同社のスリムボディタイプのコンパクトエフェクター、Micro Preampシリーズのサウンドをベースとしたアンプモデルを12種搭載したモデルがこのPreamp Liveです。その名の通りライブ演奏が意識されており、小さめの筐体ながら4つのスイッチを持つ点、各チャンネルごとにプリ/ポストブースターを搭載する点、オンオフ可能なエフェクトループを持つ点、MIDI IN/OUT端子による外部コントロールを可能にした点などにその設計思想が見て取れます。IRを使用したキャビネットシミュレーターも装備し、レコーディングやPAに接続することもでき、Mooerの代名詞でもある、実物のアンプをサンプリングするTone Capture機能も搭載。他のエフェクトは一切入っておらず、プリアンプ部のみ様々なモデリングを使用したいというニーズにはこれ以上なくぴったりとはまる製品です。
BOSSのツインスイッチ仕様ペダル”200”シリーズから登場した、アンプとIRキャビネットが一体化したモデリングアンプマシン。近年BOSSが独自に提唱するMDP技術を利用したギターアンプモデルを8種類、ベースアンプを3種類用意。あらかじめ搭載された150を超えるキャビネットIRデータはBOSSオリジナルの144種に加え、Celestionとの全面的な提携を経た高品質なものが10種揃っており、それに加えて外部IRを128種保存できるようになっています。キャビネットIRは二種を同時使用可能で、それによる立体的なサウンドも作ることができ、2カ所に配置されたイコライザーでの音質調整も可能。エフェクトもリバーブのみ3種類が用意されています。並列、直列が選べるエフェクトループを持ち、プリセットは128を保存可能。外部スイッチやMIDIでのコントロールもできることから、ペダルボードの中核として使えるよう高い拡張性が確保されているのがわかります。また、USBを使ってのオーディオインターフェース機能では本体を使ってのリアンプに対応するなど、レコーディングにも真価を発揮。32bit/96khzでの解像度はモデリングで弱みになりやすいハイゲインアンプの質感を十二分に再現し、660gの重さは持ち運びにも優れます。
デジタルモデリング系では今やIRを使ったキャビネットシミュレーターが当たり前になり、汎用性の高さがうかがえるものが多く見られるのに対し、アナログエフェクターはややマニアックな路線に位置するものが多く目を引きます。それぞれに利点や魅力があり、色々と検討するのも面白いのではないでしょうか。
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